3話:安らぎは貰い受けた。心はざわつく。
さ、陽太。お姉ちゃんと一緒に家に帰りましょうね。
えへへ、手を握られている。なんだか恥ずかしいぞ。
じゃなくて、じゃなくて。俺は弟に会わないとならないんだった。
ええと、お姉ちゃん。僕、寄りたいところがあるの。僕は大丈夫だから、先に帰ってて。
だめ。
あらそう……
病み上がりの弟を一人にさせるわけないでしょ。どこかの変な大人に連れていかれたらどうするの。お姉ちゃん、許さないんだから。 サァがんじがらめにして連行します。
ウワー過保護だった!
さあ、行きますからね。
羨ましいにゃあ。
万力のような力で手を握られている。とても逃げられない。
引きずられていく~~
陽太……! 元気でよかった……!
あんな交通事故に巻き込まれて……奇跡みたいだ。おかえり、陽太!
出迎えてくれたのは、涙を流しながらも安堵の笑みを浮かべる二人。
あ……
暖かい。最初にそう思って。
次に……羨ましい、そう思ってしまった。
この暖かさは、俺に向けられられたものじゃない。陽太に向けられたものだ。
同じことじゃにゃあい? お兄さんはこれから陽太くんになるんだからサ。
そんな簡単に割り切れんよ……というか、あんたここまでついてきたの……
(愛されていたんだな、陽太は。俺とは、大違いだ。)
(俺に、陽太の人生を奪って、のうのうと生きる資格はあるんだろうか……)
どうやら陽太くんもお兄さんと一緒で、交通事故にあったみたいニャン。転生先の器は、魂の消え行く直前の肉体が一番なの。
陽太くんは放っといたって死んじゃった体にゃんよ。だから気に病む必要ないのよ。にひひひひ。
…………
俺は――
その時――――
!? ぐあっ眩しい……! なんだ!?
~~♪
楽しそうね、陽太。
雪華(セツカ)お姉ちゃん! 見て、折り紙作ったんだ。あげる!
あら、お花……素敵。ふふ、ありがとう。
陽太は手が器用ね。将来は何か物を作るお仕事が向きそうかしら。
将来? ううん、僕サッカー選手になるんだ!
あらそう……
これは……この光景は……
陽太の記憶、か?
あ、ようやく始まったね。
いけね、間違えた。 ……陽太くん自身の魂は事故で吹き飛んでしまったけれど。それでも、肉体には何らかの記憶が刻まれてるんだろうね。
ああ、ああ……あったかいなちくしょう。知れば知るほど、恵まれた人生だよ、こいつはよ。
だけどまあ、お陰でわかったこともあるからよしとするか。
――――
どうしたの陽太。ご飯冷めちゃうよ。
……ううん、なんでもないんだ。雪華お姉ちゃん。
……!
やっと、名前呼んでくれた……
お姉ちゃんね。陽太が帰ってきてくれてほんと嬉しい……
陽太が病院にいる間ね、怖かったんだ……
わたし一人になっちゃったらどうしようって、目の前が真っ暗になっちゃった。何も考えられなくて、時計の音だけ聞こえて……
カチカチ、カチカチ……それで、気がつくともう外が暗くなってて――うぅ……ぐすっ
お姉ちゃ……!
泣いてる。俺の目の前で。
涙を止めてやりたい。俺にできるだろうか。この子のことを何も知らないのに、なんとかしてやりたい、そう思ってしまった。
(難しく考えるのはやめだ。今、この暖かい抱擁を受けられるのが俺だけってんなら、ありがたく頂戴してやるぜ……)
うふふ。だいぶ、らしくなってきたじゃんお兄さん。転生者はそうやって、誰かの人生を奪っていくんだよ――
続く……