勇者と魔王の呪転生


第2話




   













 勇者リードとしての記憶が甦り、わかったことがある。


 まず、魔王ジードが治めるこの魔界は、リードがいた世界とはまったく別の世界だということ。

 この世界の魔界と人間界は、境界と呼ばれる世界を繋げる次元の境目が存在する。

 前の世界ではそんなものはなかった。単純に大陸が分かれているだけだった。


 もう一つ。魔界には魔剣、人間界には聖剣が存在する。これも前の世界にはなかった。

 つまりここは、時間的な繋がりもない、まったくの異世界だということだ。


転生とは、こういうものなのか

 

 死んだあとのことなど、誰にもわからない。

 まさか異世界に転生するなど、夢にも思わなかった。

しかし何故、今頃思い出したんだ。勇者の記憶など……

 





ジード様。今日は本当に、どうかなさいましたか? 心ここにあらずですね

……すまない。大丈夫だ

 
 部下のレドナ。彼女は父上の側近の娘であり、俺の初めての部下でもある。

 付き合いが長いこともあり、俺の考えを汲んで動いてくれる。

 感情を表に出さないのが気になるが、冷静で優秀な部下だった。


 




 俺はレドナを連れて、魔王城大広間の扉を開いた。

 そこには魔界軍の幹部たちが集まっている。

ぎょっぎょ、ぼっちゃん――じゃなかった、ジード様! いよいよ決戦ですかい?

 
 水棲モンスター軍を束ねる、深き海のインス。

 幼い頃、俺はよく彼の背中に乗って魔界の海を駆け回っていた。

 こう見えて面倒見がよく、部下だけでなく、他の幹部たちも彼には頭が上がらないと聞く。


うむ。勇者が聖剣を手に入れたらしい

それマジっすか? ヤベっすね

 
 幹部の中では一番年若い、しかし実力で地上モンスター軍の長になった、オークのガズボルト。

 口調は軽いが、その強さは本物だ。俺は武術訓練で一度も彼に勝ったことがない。


さすがのオレも、聖剣相手はきついっすよ

そうさな。聖剣は儂たち魔物を一瞬で滅するという。陸のお主等が一番辛いところだ

じーさんは空だもんなぁ

はっはっは。剣の届かぬ空とは言え、油断はできん。聖剣の力、侮ってはいかん

 
 空の将はワイバーンドラゴンのドラグ。幹部の中では最年長だ。

 こう見えて魔法が得意で、空戦魔術部隊を率いる魔界軍最強のモンスターと言われている。
 俺も彼から魔法の指南を受けてきた。



 他の各部隊の幹部たちも、全員小さい頃からの顔馴染みだ。

 魔界を支えてきた、有能な魔族たち。


皆、臆するな。我々にはこの魔剣がある。聖剣に滅ぼされることの無い魔剣だ。この剣がある限り、魔界軍が負けることはない

 
 俺は魔剣を掲げてみせる。

 幹部たちの歓声があがる。




 俺は確かに勇者リードだった。

 だが今は、魔界の王子……新魔王ジード。


この魔界は、俺が守る!

 

 沸き上がる大広間。

 ガズボルトは雄叫びを上げ、インスは「立派になられたなぁ」と涙を流す。
 そんなインスを見てドラグが豪快に笑う。



 魔王ベイルよ。お前はこれを見せたかったのか?

 それがお前の呪いなのか?



……さすがです。ジード様。やはりあなたは王の器です

いや、俺は……勇者だよ。魔界の勇者だ

 

 最早、呪いなど関係無い。


 みんながいる、魔界を守るために。
 俺は人間界と戦うことを決意したのだ。

   










続く

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