勇者と魔王の呪転生


第1話




   













次で……トドメだ、魔王!

ふふっ……その傷で、できるのかしら? 勇者リード

それはっ、お互い様のハズだ! もう一度だけ、剣を振るうことができれば!

 
 魔王ベイルとの決戦。

 人間界の軍は魔界に攻め入り、俺たち勇者一行は魔王城に乗り込んだ。

 当然魔王の配下が待ち受けていたが、仲間が引き受けてくれて、俺は魔王と一騎打ちになった。


 しかしあと少しというところで、俺は深手を負ってしまう。
 正直なところ、剣を振り上げる力はもう残っていない。踏み込む力さえない。

 しかし、それでも。


仲間がっ! 送り出してくれたんだ! ここで魔王を倒せなくてなにが勇者か!

勇者……人の先頭に立ち、魔を滅ぼす者……。ハハ……ハハハハハハハッ!

なにが、おかしい!

勇者リードよ。私の配下はすべて、お前の仲間にやられたわ。外の軍勢も、魔物が押されているようね

ほ、本当か! みんな……やってくれたのか

あとは私が死ねば……魔界は滅びる

……それこそ、勇者の使命だな

 
 仲間は見事強敵たちを倒してくれた。ならば、俺も弱音を吐いている場合ではない。

 残った力をかき集め、震えながら剣を振り上げる。

魔を統べる者、魔王ベイルよ。

……俺の最後の一撃、受けてみろ!

ふふっ、剣を上げるのね勇者! あぁ憎い、私はお前が憎いわ! 我が配下を倒し、私の愛した魔界を蹂躙する人間、その先導者! 許せない許せない……!

 
 魔王ベイルがゆっくりと腕を掲げる。ヤツも最後の攻撃を繰り出すつもりだ。

勇者リードよ! 魔王であるこの私が……ただで終わると思うなっ!

 




 





なっ……なに!?

 
 魔王ベイルの腕から影が伸び、俺の頭を鷲掴みにした。

 いや、掴まれたという感触はない。
 それでも、触れられたという嫌悪感が走った。

な、なんだこれは、なにをするつもりだ!

呪いよ、勇者リード

呪い……だと? しかし俺は……

 
 残った力とは、命そのもの。

 この剣を振り下ろした時。
 俺の命は尽きるだろう。

今さら呪いなど、無駄なことだ!

ふふふっ……。今、お前の魂に私の魂を繋げた

た、魂を……?

私がかける呪いは、魂の呪い。お前の魂、穢してやるぞ

や、やめろ!

 
 頭を掴む影を振り払いたいが、そもそも剣を持ち上げるのもやっとだったのだ。声で抵抗することしかできない。あとは……。

 柄を握る手に力を込める。呪われる前に、魔王を倒す!

呪われろ、勇者リード。魂に我が呪いを刻み込め!

くっ……! うおぉぉぉぉぉ!!

 

 俺は魔王に向けて剣を振り下ろした。



 

















 







 勇者の記憶が甦ったのは、俺が成人の儀を行った翌日のことだった。

 自分の叫び声で目が覚めた俺は、びっしょりと嫌な汗をかいていた。



お目覚めですか。

……どうかなさいましたか? ジード様

いや……なんでもない

 
 起き上がり寝室を出ると、先程の声の主、直属の部下であるレドナが控えていた。



顔色が優れないようですが

問題ない

 
 レドナから魔剣を受け取り、腰に差す。次いでマントを羽織る。

人間界の様子は?

はい。変わりありません。魔界との境界に陣を敷き、様子を窺っているようです。こちらの軍勢と睨み合いが続いています

そうか。では勇者は?

境界が阻まれているため、正確な情報が入ってきませんが……。どうやら聖剣を手に入れたようです

では、いよいよだな。……父上はなんと?

先代魔王様は、すでに戦う力を失っております。……王子であるジード様に、すべて任せると

…………

 




 ここは魔界。そして俺は、魔王の息子だ。


 本来、俺が魔王になるのは何年も後のはずだった。

 だが人間界が力を付け、魔界に攻め入ろうとする今、力を失ってしまった父上では勇者に対抗できない。
 急遽成人の儀を行い、魔王の証である魔剣を受け継いだのだ。



どうなっているんだ……

 
 俺は新魔王ジードだ。

 そして同時に、勇者リードでもあった。



 転生。俺は……魔王に転生した。

 




呪い……か

どうかなさいましたか?

いいや……

 
 魂の呪い。俺の魂は穢されて、魔界に堕とされたということか。


やってくれたな……魔王ベイル!

 


 俺は……どうすればいい?




   










続く

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