コンコン
コンコン
控えめなノックが聞こえた。
ゆっくり扉が開かれて、思わず凝視してしまう。
あ、いたいた。大丈夫そうね。
1年のミランダです
入って来たのは女子生徒と男子生徒だった。
目を輝かせた純粋そうな二人組。
ちわーす!
同じく、ノアでーす
茶髪の青年は明るい声で入って来た。
見るからにバカそうだ。
そうか、バカだからレベルを考えずに来てしまったのだろう。
授業を受けに来たのか?
はい、えっとぉ、成績の確認ですよね。はーい
ノアと名乗った男子生徒が見せた成績表は。
オールSのものだった。
君は学年トップなのか?
思わず感心してしまう。
自分以外でオールSを取れる者がいるなんて。
こんなんですけど、トップです。先輩とおソロです
気持ち悪いことを言われたので、とりあえず成績表を突き返して隣の女子生徒を見る。
女子生徒は無表情で何を考えているのかわからない。
君もかい?
これが成績表です
少女の成績表もほとんどSしかない。
S以外はAしかない、順位は学年2位。
学年1位と2位が来るとは
先輩の受講資格をクリアできるのは私たちだけです。私たち以外は失望させます
敷居が高すぎましたかね……というか、お二人は自信があるということですか?
はい
ミランダは無表情のまま即答。
適材適所だよね。ボクたち、他の講義を覗いて来たけど、どれもつまらなかった。レベルが低すぎるんだよね。そして最後にここに辿り着いたんだ
そうでしたか。それでは、講義を始めましょうか
自分と似た感覚の人間に会ったのは初めてだった。
自然と笑みが浮かぶ。
メガネをかけて、さて授業を始めよう。
そう考えていると、
先輩
ミランダ、どうしましたか?
魔法の講義の前に、この男に礼儀についての講義をしてほしい
な、何だよ
作法の授業をまともに受けていないから去年の入学試験に落ちたのでしょう。本当なら、私より一つ上なのに
だって、作法の講義ってさ。人をバカにしているみたいで、つまんない
……
わかりました。作法の講義から参りましょう
メガネをクイッと上げて、口端をあげて笑う。
そうすると、ノアは顔を引きつらせて背筋を伸ばして直立不動。
わかりました
深く、深く、頭を下げた。
ですが、一年遅れてきてくれて嬉しいですよ
へ?
去年でしたら、私はノアとこうして出会うことはなかったでしょうから
フッと、視界が暗くなる。
そうか、あれは過去の記憶だ。
もう、過ぎ去ってしまった。平穏な時間。
ミランダとノアとの出会いは奇跡だった。
そして………
私を弟子に? ですか
ミランダ、ノアとの出会いから数日後。
一人の老魔法使いがアークのもとに現れた。
ああ。オールSの天才で、教師連中に匙を投げられたとか
ああ、そんなの一年の頃からですよ
実に愉快だ。お主は独学だけで入学し、独学で試験をトップで突破し続けている!
教えてくれる者がいないからですよ
儂が師匠になってやろう
え?
儂なら、お主の師匠として相応しい
そんなことを言われるとは思わなかった。
失礼ですが、私以上の才能をお持ちには見えません
そうだな。魔力も知識もお主には及ばないだろう
なら、どうして無謀なことを
これだよ
老魔法使いがパチンと指を鳴らす。
一匹の狼が姿を現した。
契約獣ですか
儂は獣たちと心を通わす才能に秀でている
………
狼の頭を撫でながら、男は言う。
才能あるお主の魔法を生かすには、獣の協力は必要であろう
なぜですか
彼らは魔力に関する才能に優れている……人間以上にな
え?
獣と心を通わせば、お主の魔力を正しく、無駄にせず、活用できるだろう。人間には扱えないものだが、彼らにはできる
どうなるかは分かりません。ですが、今のままでは師匠が見つかりそうにありません。だから、貴方の弟子にさせてください
喜んで、儂の名はトーマスじゃ
殆ど投げやりで、アークはトーマスの弟子となった。
のちに、ノアとミランダの二人も彼の弟子となる。
三人は兄弟弟子としてトーマスの邸で暮らすようになった。