数奇

遠区さん、墨野さんが部屋に花を飾り始めたのは、いつですか?

遠区 霞

……分かりません。この手紙を見るまで知らなかったんです。
花なんかに興味のない人だと思ってました

数奇

……僕は最初、この手紙を見たとき、とても花が好きな人なのかと思いました。そのくらい、この手紙には花とか植物に関する言葉がいっぱい出てくる。

遠区さんから聞く人物像と結びつかないんです

遠区 霞

そう言われましても

数奇

遠区さんには見当もつかないことかもしれません。
貴女が嘘をついていたのも、そのせいですから

遠区 霞

嘘? ……私は、なにも

数奇

遠区さんは、墨野さんのことが好きだったんですよね

遠区 霞

遠区の顔色が一気に白くなった。
化粧の白さではない、その奥から血の気が引いたのだ。

夜暮

……ああ、そっか

夜暮は、驚きとともに、納得していた。



だから、この部屋には捨てるよう指示されていた花が今でも飾ってあったのだ。

捨てるなんてできなかったのだ。



……もしかしたら、厚化粧の奥には泣きはらしたまぶたが隠れているのかもしれない。

しばらく沈黙が流れた。
それを破ったのは、意外にも数奇だった。

数奇

ごめんなさい。話を戻します

僕は、こんなにも花のことが書かれているのは不自然だと思いました。この季節のものではない花も多く出てきます。
それを抜き出してみました。辞典のものも含めます

そう言うと、数奇はどこからかメモを取り出し、さらさらと書きつける。

 

  梅擬
  マーガレットコスモス
  チサ
  皇帝ダリア(帝王ダリア)
  彗星蘭
  三河狸藻
  マーレイン
  芹

 

夜暮

あ、「チサ」って植物なんですか

数奇

レタスのことです

‡2 ハッピーエンドは望めないーⅵ

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