第四話
神出鬼没

二岡 アライヲ

楊様、よろしければそこの寸胴鍋を売りに出しては頂けませんか?
即金なら200万円で買取させて頂きます。

楊 金満

に、200万!?

窪中いにお

200万!?

二岡 アライヲ

現金ならすでにこの通り。

楊 金満

いや、すごくありがたいお話なのですが、さすがにちょっと怖いといいますか…

楊 金満

その内訳やら詳細をお聞かせ願えませんか?

二岡 アライヲ

アンティークにはエピソードが大事でね。浅草の名店の調理器具といったら海外ではけっこうニーズがあるんですよ。

あっちは日本よりも商品に対してのストーリー、ソウルやプライドといった類を大事にするので。

二岡 アライヲ

…というのは表向きの理由でして、ざっくばらんに申し上げますと“感”です。

楊 金満

感、ですか?

窪中いにお

アライヲさん、ちょっと待って下さい!いくらご実家が資産家だからといっても、さすがにお父様がそんな荒唐無稽な買い付けは許すはずも…

二岡 アライヲ

その点は大丈夫です。
あの方は数字とか効率じゃなくて“やった数”だけを気にするので、
後でいくらでも故事付けられます。

二岡 アライヲ

とりあえず最後まで喋らせて下さいよ。

この寸胴は、時を重ねればものすごい名器になる予感がするのです。

職業柄、建物の中に入った瞬間に一番異彩を放っているものを探す癖がありまして…

二岡 アライヲ

この店に入った瞬間に目についたのがその寸胴でした。

窪中いにお

それはそれは随分ニッチなところに目が行きましたね。

二岡 アライヲ

徳川家を追い詰めた名刀・村正、
中国の干将莫耶、
アーサー王のエクスカリバー、
ヴァジュラの金剛杵、
時代を動かしかねないアイテムになり得るんじゃないかと、僕の審美眼が自ずと輝いてしまうのです!

窪中いにお

うーん、言いたいことはわかりましたが、名刀と寸胴を比べられてもちょっと楊さんも僕もイメージがつきにくいといいますか…

すいません、これはアライヲさんの仕事を邪魔するわけではなく半信半疑といいますか

楊 金満

正直なところ、二岡さんのお話は自分には全部はわかりかねますが…

楊 金満

むしろこんな古い寸胴で良ければお売りさせてもらいます!

ただ今夜の営業もあるので、ちょっと明後日まで準備させていただけませんか?

明日の店休日に新しい寸胴を買ってきますので

二岡 アライヲ

ありがとうございます。

これは前金として半金の100万をお渡しいたしますね。

是非とも新しい設備投資の頭金にして下さい。

楊 金満

おお!ありがとうございます!
非常に助かります。

楊 金満

あれ?停電ですかね

























窪中いにお

アライヲさん危ない!!

二岡 アライヲ

やはりお前がデモニキュリオか。
姑息な真似を。

What the hell!!
味なマネしやがって!
地獄に連れて行ってやるぜ!!

二岡 アライヲ

待て!
まだ日が高い。
深夜まで待つんだ。
必ずこのデモニキュリオを盗みに来る!

Oh,hell!
何言ってんだよ。
一気に決めちまおうぜBOSS?

二岡 アライヲ

餓鬼が俺に指図するな。

ぐっ、承知。Demon bites you

窪中いにお

アライヲさん!!!

楊 金満

大丈夫ですか!?
お怪我はありませんか!

二岡 アライヲ

大丈夫ですよ!!
びっくりしました。まさか寸胴からワンタンスープが飛んでくるなんてね。
いくつになっても予期せぬ事はあるものですね。

楊 金満

もうしわけございません!
たしかに鍋の火は止めていたはずなのに。
なんでまたあんな跳ね方を!?

二岡 アライヲ

きっと僕が急に売りに出すなんて言うから愛しい店主を取られると思って寸胴が嫉妬してしまったんでしょう。
とりあえず今日のところは出直させていただきます。

続く

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