2月13日、日曜日。

絶賛修羅場中だった。

久美

お兄ちゃんは、いつからそんないけない大人になってしまったのですか!?

はるか

久美お嬢様、少し落ち着いて下さい

千冬

まあ、怒りたくもなるわよねぇ。取り敢えず全裸で土下座かしら

久美

お兄ちゃんには久美という可愛い妹がいるというのに!! 信じられません!

千冬

さて、服を脱ぐ用意は出来た? なんなら脱がしてあげてもいいのだけれど。あとは頭を踏んで無理やり跪けてあげましょうか

朝8時30分。
目が覚めたら三人の女の子たちに白井は囲まれていた。

布団ごとロープでぐるぐる巻きにされた状態で。

思考停止する事3秒。自分の背中に弱弱しくしがみつくその姿を見て、彼は全てを悟った。

清少納言

・・・

白井 空

やべ、ばれちった

直後に振り下ろされた鉄槌は、的確に布団に覆われていない彼の頭頂部を狙っていた。

* * *

千冬

さあ、説明してもらおうかしら。昨日一日生徒会の仕事で学校に行っていた私の知らないうちに、何がどうなってあなたの部屋に女の子がいるのか、その理由を

銀色の髪を弄びながら、上から目線でものを言う彼女は、白井と同じアパートに住む青山千冬。同じ高校生ではあるが、クラスどころか白井とは学校も違う。

久美

私だって、昨日パパとママに会いにお家に帰ってて、全然知らなかったのです

そう言って俯くのは西園寺久美。いいとこのお嬢様で、今は小学4年生だ。彼女もまた西園寺家に仕えるメイドのはるかとともに、このアパートに住んでいる。

白井 空

えっと、実は、かくかくしかじかで…

そして元凶の白井空は、あの日の夕方、出逢った彼女をこのアパートに連れ帰り、何だかんだで一緒に生活を共にしていた。

その日と昨日はみんなアパートからは出ていて何とか隠せたが、日曜日である今日、ついにそのことがバレてしまったところである。

その二日間の壮絶な物語は、この話しを読んでくれる方が増えた時にでも。

千冬

つまり、よく言えば道端で倒れていた女の子を、善意を持って無償で介抱したと

久美

悪く言えば知らない女の子を勝手に自分のものにしようとしたということです

はるか

まあまあお嬢様。その辺で。ところで空様、こちらにある大量の原稿用紙は? 確か空様は本という類には全く興味がなかったと記憶していますが

メイドのはるかは、傍らの小さな久美を右手で撫でながら、部屋に散らばっている大量の紙を見て言った。

白井 空

こいつが書いたんだよ

白井は後ろにいる彼女を指さそうとして、身体の自由が利かないことを思い出し今度は首を振って彼女を見る。

顔中に、鉛筆やペンのインクが擦れたような黒い染みが付いていた。
この二日間で随分と汚れたものだ。

千冬

へえ、あんたの愛人が

白井 空

愛人じゃねえ!

はるか

それで、あなたは一体誰なのですか?

すっかり落ち着いた久美から手を離し、はるかが白井の背中に向けて問う。

少女は、そこだけは堂々と答えた。

清少納言

私は清少納言。ものを書くことが大好きなのです!

その言葉が、何かのきっかけになったのは間違いなかった。

彼女たち3人の目の色が、明確に切り替わる。

千冬

せ、清少納言ってあの清少納言!? 待って、嘘でしょう…

久美

久美は清少納言の本をいっぱい読んでいるのです。そして、清少納言のこともとっても好きですよ!

はるか

私も読書は嗜んでおりますが、清少納言様の作品は特にお気に入りなのです。ぜひともお話を聞きたいですね

清少納言

みなさん、私のことを知っておいでなのですか? それは良かった。ぜひお話しいたしましょう

完全に空気は女子会だった。

つまり、男子禁制.

はるか

ちょうど今からお料理の予定でしたので、宜しければ一緒に作りながらお話しませんか?

清少納言

それは嬉しいですけれど、お料理というのは?

はるか

明日はバレンタインデー。愛が溢れ出す季節ですので

とっくに忘却の彼方へと追いやられた白井をよそに、少女たちは楽しそうに彼の部屋をあとにした。

白井 空

え、嘘だろ? ちょ、ちょっと待てy…

無情にも固く閉ざされた扉を、白井は開けることは出来なかった。

だって彼は、こうしている今も布団ごとぐるぐる巻きに拘束されていたのだから。

いつもはみんなで昼ご飯を食べるが、日曜日となれば別。各々のプライベートが重視されるので、下手をすれば就寝時間の11時まで、誰もこの部屋を訪れることはないかもしれない。

白井 空

……

長い長い一日が始まった。

〔二〕ころは、バレンタインデー

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