ラッキージャグラーの前で店員ににらまれながら待つ益荒男。良太郎とのぞみが戻ってくる。

良太郎

わりぃ、取り逃がした

のぞみ

あのワンちゃん。すごく足早かったねえ? のぞみも大人になったらあんな風に速く走れるかなあ?

↑あんな風

良太郎

ああ、きっとなれるさ。瞬発力を鍛えるには鶏肉が良質なたんぱく質が摂れて良いらしいぞ?

のぞみ

本当? じゃあ、もっといっぱい鶏肉弁当食べなきゃね!

良太郎

おう、そうだそうだ。じゃあ、晩飯は長谷川ストアに決定!

のぞみ

わーい!

益荒男

何の話だ! っつーか、その弁当買えるカードが無いから今探してるんだろうが! 俺の気遣いと小遣い返せ!!

良太郎

まあ、そうカリカリすんなって。お前にはミルクがオススメだな

益荒男

カルシウムが足りないって言いたいのかな? あと俺の方が安上がりなのも何かムカつくなあオイ

―大通り―

 大通りは雪がちらついている。自販機の下や公衆電話BOXの中を各自、手分けして探る良太郎、のぞみ、兄貴。体をガクガク震わせながら

良太郎

見つけたか?

益荒男

あるわけねえだろ! つか、危うく警察に捕まりそうになったし!!

のぞみ

おまわりさんにお願いしたら?

良太郎

賢い、のぞみ!

益荒男

たしかに正解なんだけど……俺達には逆にリスクになる可能性が高い

良太郎

何で? どこがだよ

益荒男

俺が言えた義理でもねえけどさあ……お前のリーゼントと特攻服に聞いてみろよ? こっちの質問が職質になって返ってくるぞ?

良太郎

何だと上等だ! 政府の犬がなめんなよコラ

益荒男

だからそういうところ! 最悪カード見つからなくても小銭でも何でも拾い集めて凌がなきゃいけねえかもな

 そこへ、警察が駆け寄ってくる。

警察官

君たち、さっきからわめき散らかして何やってるんだ。その女の子とはいったいどういう間柄かね?

良太郎

逃げろー!

のぞみ

逃げろー!

益荒男

逃げろー!!

警察官

待ちなさい!

 走り出す良太郎一行。

 肩で息をする三人。涙ぐむのぞみ。

良太郎

死ぬかと思ったぜ!

のぞみ

のぞみが函館に来たいなんて言ったから…。お兄ちゃん達が大変な目に…ごめんなさい

益荒男

……のぞみ

良太郎

ほら、見ろのぞみ

 良太郎がリーゼントのバネを利用して、のぞみが拾ってきた10円玉を高らかに上げる。

のぞみ

うわー、すごーい。おもちゃみたい!

益荒男

てか、どうなってるの? お前の髪質っていうか、ギミックっていうか……

良太郎

表と裏、どっちだと思う?

のぞみ

当たったら何かある?

良太郎

うん、ご褒美にギュッと抱きしめながら燃えるような口づけを……

益荒男

それはよせ!! つか、良太郎。いいこと思いついたぜ

益荒男の激しめのツッコミで10円玉が吹っ飛ぶ。

良太郎

あ~あ

のぞみ

あ~あ

益荒男

四の五の言わない! さっさと行くぞオラ!!

―大広場―

 益荒男とのぞみが音頭を取って集客する。自信満々の良太郎の表情。

益荒男

さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。世界初、ヤンキーのリーゼントジャグリングの時間だよ~

のぞみ

応援よろしくお願いしまーす!

益荒男

はい、そこの僕! 小銭か何か差し出してくれないかなあ

 指名された少年Aがカツアゲと勘違いして逃げ出してしまう。

少年A

これだけは許してください。親が必死に夜なべして作った給食費なんですよ~

益荒男

いや、そういうんじゃなくて俺はただ……ってか、夜なべって

 今度は違う少年Bにのぞみから声をかける。少年Bのランドセルのキーホルダーを見て。

のぞみ

ねぇ君、かわいいぬいぐるみだね? ちょっと楽しいことするから貸してもらえる?

少年B

この子、僕の友達なんだけど。痛いことしない?

良太郎

しないしない!

益荒男

おら、さっさと行くぞ良太郎

良太郎

おおそうか! それじゃあ、宜しくね

少年B

うん!

―リーゼント式大道芸開始―

良太郎

よっ! せいっ!!

益荒男

いつもより長く回っております~

良太郎

益荒男。俺、コツ掴んだわ。もう一個いけそう!

益荒男

よっしゃ、じゃあそこの僕、手に持っている人形を彼の頭めがけて投げてみて!

少年B

うん!

良太郎

もう一丁!

益荒男

おい! 誰だ、得体のしれない犬まで投げて来た奴は!!

良太郎

乗りかかった船だ、やってやろうじゃねぇか!!

 段々集まってくる観衆。益荒男のスーツケースの中にどんどん小銭が入れられる。

 そのうちの一人がふざけて良太郎のリーゼントめがけて投げ銭すると、良太郎も負けじとそれを受けて回す。

通行人

おもしれえ! 俺も俺も!!

 みんな気づくとケースではなく次第に良太郎に小銭を投げまくる。

益荒男

ひい、みなさん危ないのでやめてください!

良太郎

止めるな、益荒男! 売られた喧嘩を買わない不良がどこにいるんだよ!! なんだか燃えて来たぜ、オラこいよオラ

益荒男

もはや漢らしさって何なんだ!?

 いつの間にかお手玉のように回すジャグリングのはずが寒さで髪の毛が固まったのも愛重なり、投げられた小銭をバットのようにはじき返しまくるアクションに変わってしまう。

 その小銭のうち一枚がたまたま歩いていた野良犬のみぞおちにヒットし、口からブラックカードを吐き出す。

ワンちゃん

キャウウーン!!(そんな事ってあるんかーい)

良太郎

よっしゃー!

益荒男

やったー!

のぞみ

でも、ゴメンねワンちゃん!

 ブラックカードを回収するや否や、警察がまた追い掛け回してきて、結局大量の投げ銭を回収できずに逃げ去る良太郎一行であった。

〈脚本・監修〉橋本ピッツァ(敬称略)

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