22:00、惨劇の現場にて。

住民からの通報があった。
なんでもハイキングからの帰りだったそうだ。

こりゃひでぇ

目の前の惨劇に怯むことなく毒づくのは佐々木秀郷(45)
こう見えていくつもの修羅場を潜り抜けた刑事である。
彼の武勇伝を聞いたならまさに生ける伝説という感想をもってもおかしくない人物。

警察ではそれなりに有名、らしい(本人談)

目の前に転がっている制服を着た死体。
腹を潰され、顔を潰されたもの。切り傷は見た感じでは見当たらなかった。とにかく遺体は潰されていた。

そんな正直な言葉を若手刑事の宮本義嗣(26)は佐々木刑事に告げた

そんなの見ればわかるよ宮ちゃん。考えなくちゃいけないのはもっと別にある。・・・動機だ

動機ですか

そう、ここを見た限りじゃ動機が分からない

死体の様子から見て恨みじゃないですか。

この人数を、たった一人で。しかも死体以外の痕跡を残さない徹底ぶり。相当な手練れだ。
君はどう思う、榛名ちゃん

さり気なく近くの女性警官に絡む佐々木。彼はよくこうやって若い女性に絡むことがある。
本人曰く、男よりも直感が優れているからだとか。

え、私ですか。

ほら困ってる

意地悪ってわけじゃないからお願い。君の直感が必要なんだ

「君の~が必要なんだ」
佐々木が人に絡むときに使う必殺技であるのだが、流石は有名人といったところ。回答する側もそれにホイホイと乗ってしまう。
ある意味恐ろしい能力である。

そうですね、なんだか不思議です

どの辺が

う~ん、なんだか恨みにしては徹底的すぎない気がします。本当に憎かったらもっとこう、計画的にやります。
刃物でもなんでも武器みたいなものを用意すると思います。

そう、そこだよ。

いやぁやっぱり若者の意見は聞いてみるものだよ。ほんとありがとうね

自分もまだ二十代ですけど

だって君男じゃん。僕ぁ言っているのは若い子ってのはね若い娘って書くの。野郎の意見とか誰得

とにかく、もう少し調べようね。なんというかね、
なんだか嫌な予感がするんだ。

―5時間前-

その日はひどい雨だった。
雨が降らない日が続いたツケが来たのか、少なくとも植物にとっては久しぶりに恵みの雨そなった。

一歩でも外に出たらずぶ濡れ覚悟、自習室の中で薫はそんなことを考えていた。

どうしようか

このまま学校にとどまろうか。ずぶ濡れ覚悟で帰ろうか決めかねていた。

少し迷って帰ろうと決めた。無駄な時間を過ごしたくなかったからだ。

仕方ないか

一秒でも雨の当たらない場所を目指して走った。

靴の中が水浸しになるのを気にしていても仕方ない。
そうやって一歩一歩足を前に出す。

家に帰りたい。しかし足を止めてしまった。
否、足を止めねばならない理由があった。

また逢えるなんで運命かな。

・・・もう帰してください

同感、なぜ彼女のピンチに巡り会ってしまうのか、なぜ彼女のピンチにいるのがアイツなのか。我ながら運命というものを信じてしまうくらいだ。

今回はほかにも2人の取り巻きを引き連れているようだ。

ここじゃぁアレだし、ね、分かるよね。頭いいもんね。

赤沢さんを連れて行った3人組を追っていつの間にか近所の山道まで来てしまった。

いつの間にか雨は上がっていた。

助けるチャンスを窺っていたがついにこんなところまで追ってきてしまったようだ。

この間の借りもあるし、どうしようか。

赤沢さんのアゴに手を当てそう言う。もはや自分のものとでも言ったかのような態度で。

おい、十分じゃないのか

たまらず飛び出していった

またお前か。どうして君が現れるの。今度こそは関係ないから引っ込んでいてよ。

こいつが浩介さんをやったやつですか。

邪魔されると面倒だから帰ってくれるかい

ここまで来て帰れるわけないだろ

君がいてもいなくても僕たちは好きにやるよ。
君が何かしたらこの子、知らな

そう言いかけたところで走って間合いを詰めようとした。
策は特になかった。でも今しかチャンスはなかった。

しかし、相手は3人ということを考慮しない戦術だったため当然無理が生じた。

空気を切る音とともに拳が飛んできた。

そして、避けたところを捕まえられてしまった。
悔しかった。助けに来ておきながら彼女に情けない姿をさらしてしまったことが。何よりも自分の敗北が。

こいつ舐めた真似をしやがって。

先輩!

君は動かないでよ

浩介と呼ばれるそいつは赤沢さんを突き飛ばした。

こいつは俺たちで殺るんで先に楽しんでいてください。

「楽しむ」の言葉に自分の何かが反応した。

体を起こされ、殴られ、蹴られ、殴られ、蹴られた。
感覚が薄くなっていく。

勝たなくては、ここで負けたら何もなしえない。
この状況を何とかしなくてはいけない。

「今だ」 何かの声を聴いた気がした。
自分の意思とは関係ない快楽のサイン。

さぁ、君のヒーローはグロッキーだ。

その一言が僕が聞いた彼の最後の言葉だった。

僕の意識は彼女の救出から、彼らの抹殺に切り替わった。

僕の腕は近くの石を取った。

続く。

pagetop