ハル

もしかして自分で名乗ったら
冒険者になれるんじゃ
ないっすかね?

 タラトの様子に気付かないハルは、ダナンの問いに自身の意見を零した。

隣のテーブルの男

お前達、
そんな事も知らないで
ここにいるのか?

 隣のテーブルに居た精悍な顔付きの男が、椅子に座ったまま半身を捻り、声を掛けてきた。

リュウ

やっぱりそれって
常識なんですよねぇ。

隣のテーブルの男

お前達みたいな若造は
すぐに死んじまうんだろうが。

ダナン

それはやってみなけりゃ
わからねぇぜ。

隣のテーブルの男

そうほざいて死んだ奴を
幾らでも見てきたが……

メナ

えと、差し支えなければ
教えて貰ってよろしいですか?

隣のテーブルの男

……訓練場だよ。
大通りを突き当りまで
行った所にある。

 男はそれだけ言って体を前に戻した。
 ハル達は訓練場という言葉に、様々な想いを馳せる。

ハル

おおおーーー!
訓練場って、なんか
おおおーーーって感じっすね。

ダナン

全然何言ってるか分かんねぇけど
気持ちは分かるぜ。

メナ

そこで色々教えてくれるんだわ、
きっと。

ユフィ

そう考えるのが自然だわ。
迷宮を攻略しよとするなら
冒険者達の訓練は
必須という事ね。

メナ

でもユフィは、
迷宮の探索はしないのよね?
ネピアさんの病気を治す方法を
探す為に来たんだし。

 ディープスの手前から行動を共にしたダナンが、そうだったのかと言いたげな表情をしている。

ユフィ

いいえ。
登録してもリスクがないなら
行ってみようと思うわ。
冒険者にならなければ
知り得ぬ事もありそうだし。

メナ

そっか。良かったぁ。
もう別行動かと思って。

 メナはユフィの眼差しを受け止め喜んだ。そして思い出したようにリュウに話を回す。

メナ

そう言えばリュウって、
ユフィの護衛でベインスニクを
出たんだよね?
これからどうするの?

リュウ

あ、もち、それもあるけど、
親父に……

屋敷の主人

社会勉強してきなさい。
二人共一人前になるまで
帰ってこなくてよろしい。

リュウ

なんて言われたから。
中途半端で戻っても
屋敷に入れてくれないどころか、
ボコボコにされるな。

ハル

意外にも武闘派なんっすね。

リュウ

まぁな。
理知的でいて武闘派なんだ。
子供の頃からかなり
鍛えられたからな。

 リュウは昔を思い出しながら、腹を満たしたタラトに目を移した。

タラト

……ク……レン、ジョー。

 片言で呟き、誰に憚ることなく立ち上がった。そして出口に向かい歩き出した。

ユフィ

さっき冒険者って言葉に
反応していたわ。

リュウ

訓練場を探してるのか?

ダナン

おっし!
それなら俺達も行くか。
訓練場に!

 ダナンの号令のようなセリフを合図に、ハル達はテーブルを立ち、タラトを追い掛けるように店を出る。しかし、一番最後になったメナは、店の中がどうも気になるらしい。

メナ

うむぅ~

ハル

どしたっすか?
早く行くっす。

メナ

さっきの人が凄く気になって……

ハル

ん?

 ハルが入口から覗き見る。すると先ほどの空色の髪の女性が、思い悩んでいた。

空色の髪の女性

どうしましょう……

 真剣に何かを思案している事が伝わってくる。その真剣さにあてられ、ハルの口は半開きになっていた。

メナ

ま、まさか……

ハル

ななな何っすか?

空色の髪の女性

キングファムンテンを
一つお願いします。

メナ

えぇ~~~~!

ハル

はへ?

メナ

あの人さっき、二人前の
ファムンテン食べてたのに。
さらにおかわりするなんて。
しかもキング……。

ハル

……

ハル

ペクンタより食べそうっすね。

 顔を見合わす二人。そしてハルの言葉をメナは否定しなかった。

 ~伏章~     21、いざ訓練場へ

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