ここは
周辺を列強に囲まれた小国
アストリーテ。
城の裏手には
『祈りの巫女』が座す神殿があり
代々の巫女が
このあたり一帯の平和を祈っている。
そこの騎士様、お花はいかがですか?
城下町を歩いていると
花売りの娘に呼び止められた。
今日はピンクの薔薇がお買い得ですよ
……
一瞬、買って行こうかとも思ったが
今日はさすがに尚早だろう。
なんせ今日は、
ま、また今度ね
お急ぎですか?
それじゃ約束!
次は買って下さいね!
【終章:いつか きみに届く】
神殿の庭に
水仙が揺れている。
何十年も前に
当時の巫女が植えたその花は
今や、見渡す限りの花園になった。
レナ様――!
賑やかな足音を立てて
メイドのローリエがやって来る。
……あれ? お忙しそうですね
ええ。今日は新しい護衛の方がいらっしゃるの
あ、任命式! 忘れてた!
明るい子なんだけど
忘れっぽいのが玉にきず。
でもそんなところも可愛らしい。
ふふ。ローリエらしいわ
んもう!
って、そんなこと言ってる場合じゃなかった! 準備準備!!
頑張ってね
……
頑張るのはレナ様のほうですよー?
遠ざかる足音に溜息をひとつ。
なんとか
いつもの顔でいられたみたい。
……とは言ったものの
……緊張してるなぁ……あたし
今日から
新しい騎士様が護衛に入られる。
数時間後に
その騎士様の任命式がある。
王宮はその準備で
朝から賑やかで
喧噪は神殿にまで聞こえてくる。
……んだけど。
……憶えて……る、よね?
どこかで歯車が違ったりしなければ
数時間後に対面するのは
「あの人」なわけで
いつかあなたにも、犬や老婆や機械やネズミでも、そして同性だったとしても大事にしてくれるような人が現れますよ
……駄目だ、照れる
試したわけじゃないのよ?
たまたま、と言うか
偶然、と言うか……
……そう言えば
ローリエは何の用で来たのだろう。
うきゃあああっ!!
城の廊下を歩いていると
悲鳴が聞こえた。
?
……林檎?
足下に転がってきたのは林檎。
そして両手にこぼれそうなほどの
林檎を抱えて駆けてくるのは
見覚えのあるメイド娘。
あ! その林檎!
あたしが落としたんです!!
すみません、拾って頂いちゃって
いや。
見覚えがあると言っても
一方的な話。
今の彼女は、俺に面識などない。
今度は落とさないようにね
林檎を受け取ったメイド娘は
その林檎を手にしたまま
まじまじと俺の顔を見上げてきた。
騎士様見ない顔ですね。新しい方ですか?
うん。今日から厄介になるんだ。よろしく
そう。今日は初登城。
なのに
すれ違う人々のどれもが
馴染んだ顔で
それがどこか奇妙に感じる。
後輩ちゃんか~。わからないことがあったらなんでも聞いてくれたまえ!
……って、もしかして騎士様、今日来るって噂のレナ様の護衛?
やっとここまで来た。
ああ、そうだよ
今度は憶えているだろうね?
レナ。
あ、それじゃついでに今日のおやつはアップルパイと焼きリンゴのどっちがいいか、レナ様に聞いておいてくれますか?
さっき聞くの忘れちゃって
この娘は相変わらずだ。
普通、初対面で今日が初任務の男に
「おやつはなにがいいか」なんて
聞きに行かせないだろうに。
焼きリンゴがいいんじゃないかな。アップルパイは縁起担ぎで食べないって言ってたから
へ?
ええっと……騎士様、レナ様のお知り合いで?
うん。何百年か何千年かの腐れ縁
は?
ここの花の量も相変わらずだ
何百年、
何千年かかっても
きみが待っていてくれるなら
俺はどこまででも会いに行くよ。
あ――やだ。緊張して来た――
何百年、
何千年かかっても
あなたが来てくれるなら
あたしはずっと待ってるから。
でも、会ったらまず文句を言おう
平常心! 平常心!
ぷっ
さあ行こう。
ここから先は
まだ見たことのない未来。
俺の
想いは
あたしの
いつか、きみに届く――。
あ、ああ………ラスト、もう、ラストが震えます…。
いつか、きみに届く…。いつか、きみに届く…。2人で笑いあってるのも、素敵すぎて素敵すぎて。もう、本当に、幸せになって欲しいです
転生というテーマならではの壮大さに、最後まで惹きこまれました。想い合う二人の関係は、微笑ましくも切なかったですが、再会できてよかったです! ありがとうございました。
子無狐さん、こちらにもコメントありがとうございますww
せっかくの転生テーマなのでこれでもかってくらい転生させてみました。回って戻って来るのって輪廻っぽくて面白いかな、と(´▽`
こちらこそお読み頂きましてありがとうございましたww
橋本様、こちらまでお読みくださいましてありがとうございます。
最初からこのラストだけは決まっていたので、好きと言って頂けると書いた甲斐がありましたw
こちらこそありがとうございます。
今更ながら読了しました
綺麗で儚くて苦しくて、だけど愛しい…
なっつさんの物語はキャラの心の機微が分かりやすくて、スゴく感情移入しちゃいます
素敵な物語でした!