【第7章:深紅の選択】



































我が国は
何年も前から戦争を続けている。



アストリーテと違うのは

我が国が
世界を二分する大国であること。

そして迎え撃つ戦力も万端なこと。







おかげで我が国は負けることなく、





……勝つこともなく、
ずっと消耗戦を繰り返している。











知っているか? 上層部は中性子爆弾の使用をも検討しているそうだ



俺の直属の上司であり、
この前線基地の司令官でもある彼は
そう言った。

中性子爆弾?
あの建物は無傷なのに人だけ死ぬという?



深紅の軍服は
我が軍全体で数人しかいない
エリート将校の証。



遠目からでも目立つその色は
いつ襲撃にあうかもしれない前線に
いていい色ではない。

司令官が真っ先に撃たれた、なんて
シャレにならない。

そんな都合のいいものか。
落とせば壊れる。放射能で汚染もされる



つまり、
遥か後方にある指令部の
シェルターのように安全な作戦本部で

チェスの駒を配置するように
兵の処し方を決める。


それが本来の彼がいるべき場所だ。

人間は不要だが箱物は欲しい。と、そういう連中が声を上げているのだろう。実際にどんなものか知りもしないで

それで? 従うので?



戦うためにある軍で
戦うことを望まれていない者。

矛盾しているように聞こえるが
それが現場とエリートの違いだ。



彼もいつかは国を背負うことを
期待されている。




巫女の時に似てるな






『祈りの巫女』が死ねば
国は滅ぶ。



言い伝えの真偽は不明だが
それが小国アストリーテを侵略から
守ってきたことに間違いはない。

















彼女が殺されて
アストリーテが滅んだことも


……間違いではない。


















いつの時代もきみの命は重いね


そう。
もうお気づきかと思うが





























彼は、レナだ。

力が欲しいというのはこういうことかい? レナ



戦争を止められる力が欲しい、と
そう願ったのは彼女だが

まさか
こう来るとは思わなかった。




男女同権が叫ばれて久しいが
未だ世界は男性社会。

特に軍事関係は。







どうしよう。

今後、
男で転生してくるようになったら。


























今朝こういうものが来た



彼は一封の封書を差し出した。
封蝋に浮かぶのは敵国の紋章。

話し合いたい、と言っている

それがあなたを誘い出す罠ではないという証拠は?



いかにも敵国でござい、と
言いたげな封書が
ここまで届くことのほうが奇跡だろうに。

この署名の男は俺の学友でね。昔から力による優劣など無意味だと言っていた

え?

まさか敵味方に分かれるとは思わなかったが……彼が向こうにいるのはかえって都合がいい

兵も民衆も疲弊している。
まわりの国は共倒れを期待している。
このまま続けても双方にメリットなど、もう何処にもないんだ

安全なところにいる爺どもは自分の利権のことしか頭にないからな。
奴らがくだらない決定を下す前に手を打ちたい

これが罠であったとしても……

……



きみは優しいね。

そんな美味い話、
罠以外のなんだと言うんだ。

向こうさんは我が国と同レベルの国力がある。こちらで考えていることは、きっと向こうでも検討している

敵さんも爆弾を落としに来るかもしれない、と?



彼だって
知り合いだから無条件に話に乗る
わけじゃない。


俺の知らないところで
いろいろ考えた結果なのはわかっている。











この話し合いで
終戦の糸口が見つかれば、

戦争を終わらせられれば、










……この転生も
終わるかもしれない。






















でも。



ひとりでなにもかも背負いすぎですよ





皆が幸せになるように、って祈って、それで皆が幸せになればいいじゃない?





幸せになってもらいたいよ。

誰でもなく、きみに。
































いいでしょう。お付き合いしますよ、どこまでも

話を聞いていたのか?
罠かもしれないんだぞ

私はあなたの護衛ですよ? 昔も今も






































そこまでだ!


そこへ突如として
兵隊が乱入してきた。

俺たちに銃が向けられる中、
その人垣の向こうから声が聞こえた。

そこまでだ。
きみをスパイ容疑で逮捕する

その顎鬚には見覚えがある。
強硬派の……
レナとは対極の位置にいる男だ。



顎鬚の将軍は
卓上に置かれたままの封書に目をやる。

深紅を許された者が敵と内通していたとは、残念だ

銃口がこちらを向く。

奴らと共存の道などないのだ。それがわからぬ腑抜けなど我が軍には不要!


あの封書が罠だったのか、

都合よく舞い込んできたから
利用しようとしてるのか、


それはわからないけれど




将軍が彼を
害そうとしているのは事実。








叩き上げの将軍が
深紅を嫌うのはわかるが……

安全なところにいる爺どもは自分の利権のことしか頭にないからな

もし本当に
私利私欲のためだけに
それを言っているのだったら
呆れてものも言えない。



























……私が隙を作りますから、逃げて下さい



将軍に聞こえないように
小さく囁く。

レナは……私の上官は
こんなところで終わってはいけない。

そんなこと、

私は、護衛です

……

友達、ではなく?

……


答えにくいことを言ってくれるね、
レナ。

……「俺」は、








刹那、
視界が白く染まった。


















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