【第6章:不穏な足音】



















































それからまた何百年か経って

……



俺はレナに出会った。


なぁに?



犬でも婆さんでもロボットでもない
可愛い女の子。



俺の頼みを
聞いてくれたんだろうと思う反面

どれだけ融通が利くんだと
思ったり、思わなかったり。
































まぁ……それはともかく。


























な……なんでもない……



「可愛い女の子で」というのは
俺「も」という意味ではないのだが。


どちらともとれる言い方をした俺が
一方的に悪いんだとも思うが。

これは……



せめてこんな時は男だろ!?
察しろよ!!



……と、会ったこともない神に
文句をつけるのは
あまりに勝手な言い分なんだろう。
















なんせレナにとって俺は

お友達が訪ねて来るって

「お友達」。




「お友達」なら
同性でもなんら問題ない。
彼女的にはむしろ歓迎かもしれない。


















さっきからなに考えてるの?

お、お昼どうしようかな~って



ただ気になるのは

出会ってからもう5日も経つのに
彼女がなにも言ってこないこと。








記憶が残っていないのだろうか。


俺が女で転生してしまったから
わからないのだろうか。










もしそうなら
「前世がナントカ」を語っても
引かれるだけ。


下手をすれば
「ちょっと行っちゃってる危ない人」
というレッテルを貼られ、
お友達の関係すら撤回されてしまう。














もしかして購買組!?

こんなところでもたもたしてていいの?
もうみんな買いに走ってるわよ?

え? だってまだ3限……



レナ。




きみにとって俺は何なんだ?


きみが憶えていないのに
俺が過去を引きずって転生する意味は
どこにあるんだ?

ああ、高校からの転入組だから知らないんだ。
すごいのよ、うちのパン争奪戦

もう残ってないかも……

い、いいの。ダイエットしてるからジュースだけで!



きみが憶えていないのは

うん。今日はあたしのお弁当わけてあげる

い、いいって




「もう俺に会う必要はない」

思い始めてるからじゃないのか……?



遠慮しないで!
あたしたちの仲でしょ?

仲って言ったって、まだ出会ってから1週間も経ってないんですけど?



だったら

1週間?

1週間じゃないでしょ?
忘れちゃった?

え?







お話したいって、言ったよね?



あの?







歳の差が嫌とか、人間がいいとか言ったよね?







……え?


もしかして
憶えているんですか? レナさん。




























































ああ!

なんで俺は女なんかに
転生してしまったんだ!!


























一緒に食べよう!
今日は上手にできたと思うの

……


手料理なんて嬉しくは……





……ええと。































































建物は日増しに
空に近づいているけれど

それでも空は
遠くて

















なんだか



俺とレナの距離みたいで


























あ、飛行機



ふたり並んで見上げる空を
黒い影が横切っていく。

軍用機よ。戦争がはじまるかもしれないってパパが言ってたわ

戦争は……嫌だな

うん……





脳裏によぎるのは










炎に包まれたあの日の光景。


あの記憶を忘れることができれば
転生も終わるのだろうか。






























レナを
解放してやれるのだろうか。































もっと力があったら止められたのかな

……





いつまでも辛い過去を
持ち続けるより

全て忘れて
その時々の人生を謳歌したほうが
ずっと前向きだ。






辛い過去も、
その過去を共有する俺も、
















きっと








いないほうが
レナにとって、いいのかもしれない。




















祈ることだって無駄じゃなかったと思うよ

……

そう、だったらいいなぁ




レナは、ただ笑う。












pagetop