【第4章:親愛なる隣人】























































俺の家は新興住宅地にある。

何十年も前は山だったらしい。


人口の増加に伴い、
こうして
山を削ったり池を埋めたりした
住宅地が増えている。


蛇が地名に入っている土地は、昔、水害があったんですって



とは俺の母親の談。

そこまで知っていて
此処に家を買った理由が
俺には理解できないのだが

崩れる山を削っちゃったんだもの、平気よ


という根拠のない理論を
力説されると
そんなものかと思ってしまう。







まぁ、俺も春からは大学生だし
此処を離れて下宿生活だし……

あれ? なんでお前いるの!?

あ?


聞き覚えのある声に振り返ると、
高校の同級生が立っていた。


「3年間同じクラスだったが
数日後に控えた卒業式以降は
会う予定などないモブA」って奴だ。

そりゃあこっちのセリフだ。
なんでお前が

引っ越してきたから


見れば、


数軒先に引っ越し屋のトラックが
横付けされている。

カッパが箱を抱えている。









小学生の頃は
そのカッパの尻を触るといいことがある
などという噂が流れ、

全校朝礼で
「走っているトラックは危険です」
などと、当たり前すぎる注意を
受けたものだが









……さすがにこの歳になって
カッパの尻は触らない。




今頃?

引っ越しシーズン真っ只中だ。なにも不自然は無かろう

あーそうかもねー



俺たちが立ち話をしている間にも
引っ越し屋のオニイサン方は
忙しそうに走り回っている。


きっと午後にも何件か
予定が入っているのだろう。


お前も運ぶの手伝ってやったら?
人手はいくらあっても足りないだろ


ひょんなところで顔見知りに会って
嬉しいのかもしれないが

生憎と俺は
お前と雑談するために
外に出てきたわけじゃない。


お前もそれは同じだろう?




俺は
話を打ち切るきっかけを探る。





だが

素人が入ると邪魔なんだそうだ。
仕方ないからこのあたりの偵察を兼ねて、婆ちゃんと散歩にでも行こうかと

ふーん


モブAは立ち去る気がないらしい。




「散歩でも隠密行動でもいいから
さっさと行けよ」

そんな台詞を舌の上に乗せかけた
まさにその時、


あら陽介、お友達?

現れた「婆ちゃん」を見て
世界がひっくり返るかと思った。






高校でたまたま同じクラスにいただけで、それ以外の接点などなにもないどころか、この4月からは会う予定もない、クラスメートの坂崎くんです

……お前……



待ってくれ。

……それより、そちらがお前のお婆様か?



こんなの反則だろ!?

なんだ急に気持ちワリィな



なんてことだ。


こともあろうに
高校では同じクラスだったにも関わらず
ほとんど会話らしい会話もしないまま
卒業して別れる予定だった
モブAの婆ちゃんが……




























……レナ、だと?













坂崎くんというのね。
これからご近所になるの。よろしくね





そりゃあ確かに
話がしたいとは言ったが、

話ができればそれでいいって
もんじゃないだろう!?



歳の差ありすぎだろ!!

あ、こいつ春から大学の近くに下宿するから会うことないですよ

あら、そうなの?

いえ、気が変わりました。
ここから通えない場所でもないし、俺は自宅通学します



しかし歳の差がなんだ。

前世に比べれば会話が通じるだけ
いいじゃないか。

これからもよろしく



……と
思っていないと辛すぎる。


立ち話もなんですからお茶でもいかがですか? 散歩がてら行ける場所なんで

あら、いいわねぇ







































ご近所にこんな素敵なお店があったなんて

アップルパイも美味しいと評判ですよ。お好きでしょう?

ええ

でもね、アップルパイは食べないことにしているの。
縁起を担いでいる、というのかしら

……






























ああ。
まだ憶えているんだね、レナ。























なんでお前が婆ちゃんの好物知ってんだよ


隣に座る邪魔者が
俺の脇腹を肘で小突く。

なに言ってるんだ。俺はこの店のアップルパイが美味いと言っただけだぞ?

さっきは下宿やめるみたいなこと言い出すし

安心しろ。お前には髪の毛1本ほども興味はない

……

………………年上が趣味?

……


前世がどうとか
ただのモブに教えるつもりはない。



























おいしい

そりゃよかった

……


でも

できれば歳の差は
もう少し少ないほうがいいな。


ほら、孫が呪い殺しそうな目で
俺を見るじゃないか。








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