【第3章:温もり】




















































……とは言ったがの

せめて会話がしたいと思うのは贅沢な願いなのかのぅ

わん



目の前で尻尾を振っている犬は
数日前に拾った。

愛らしい見た目だが年寄りらしい。
動きに機敏さがない。




まぁ、年寄りなのは
こっちも同じなので
ちょうどいいのかもしれない。



同じ時に出会えてよかったね、って?







今更説明するまでもない。
この犬はレナだ。


いつものように
心の奥がそう言っているのだから
間違いない。































あの日。

俺はレナの死を知った。

レナが生前
俺を待っていたことを知った。

次は同じ時を生きよう、レナ


と墓前で誓ったものの
それ以降
レナは俺の前に現れず





























50年も経ってから

いきなり姿を見せた。


























諦めかけていた。


現世ではもう
出会ってしまっているのだから

次は来世まで会うことはないだろう、と
そう思っていた矢先のこと。








アストリーテから遠く離れた
こんな山の中まで

この小さな足で
歩いてきたのかと思うと
胸が熱くもなるのだが……












わん

……何故、犬なんだい? レナ。




問い詰めたいのはやまやまだが
答えてくれても
俺に犬語は理解できない。









そりゃあ、
これも「同じ時を生きている」ことに
変わりはないが。


……けどなぁ

……

あ、いや。会えて嬉しいよ。レナ



本当に
きみはそれでよかったのかい?





じゃが、次に会うときは言葉が通じるといいのう































世界にはたくさんの命がある。

動物も、
鳥も、魚も、木も、草も。



その中で数%にしか満たない人間に
生まれ変わるほうが
確立としては奇跡だろうけれど。














































よく降るのぅ



窓の外は雨。
もう3日も降り続いている。


そろそろ裏山の地盤が心配だが
おいぼれの足では
見に行くのも難儀だ。

そんなところにいては冷えるじゃろう。
もっとこっちに来て火にあたりなさい

わん

……お前さんはあったかいのぅ


人間同士だったら
こんなことは
恥ずかしくてできなかった。


だったら、
きみが犬に生まれてきてくれて
よかったと





……そう、思うべきなのだろうか。














































雨は、止まない。









pagetop