【第2章:面影】





















































俺は今
過去にアストリーテと呼ばれた
場所にいる。


宿の主もおかみさんも
ここにアストリーテという国が
あったことは知らない。























鏡に映る自分の顔は
俺にとっては見慣れたもの。



だが――























あの日。
俺は生まれ変わったレナを見つけた。

髪の色も目の色も違うけれど
俺にはわかる。





年の頃は10歳ほどだろうか。

戦後20年経ってから
転生してきた計算になる。






どうして転生したのか、
どうやって転生したのか、

それはわからない。




この先も同じように
生まれ変わってくれる、とも
限らない。








そして、

俺も転生した、ということは


そこに
何の意味もないはずがない。
































不甲斐ないことに
俺は彼女を目前にして死んだ。



再び巡り合うことができると
わかっていたなら
不摂生もしなかったのだが
それは後の祭り。


野垂れ死ぬつもりで
生きて来た罰が当たったのだろう。


















もし生き返ることが叶うなら
もう1度。





死の間際のそんな図々しい願いを
どうやら神は
中途半端にも叶えてくれたらしい。






俺は
アストリーテとは大陸さえ違う国に
生まれ落ち、

頭の奥に残されていた記憶だけを
頼りに
ここまでやってきた。


















……

しかしいくら記憶があっても
今の俺に前世の面影はない。

同じように髪を伸ばしてみたが
鏡の中から見返してくるのは
全くの別人。










でも。



それでも構わない。

俺が彼女だとわかったように
彼女も俺だとわかってくれる。

























……はず。


























彼女は『祈りの巫女』。


転生してしまった今
それはもう
自分勝手な願望でしかないけれど

ただの騎士だった俺よりは
徳とやらを積んでいるだろう。




俺はそこに一縷の望みを託す。















































































レナの……家


まだここにいるだろうか。


生きていれば40代。
もう子供もいるかもしれない。


知らない男が訪ねて来たら……怪しいよな


でももう1度。
きみに会いたい。











はい?



ノックに現れたのは
見知らぬ女性。

え? あ……


レナ、ではない。









どこかあの少女に
似ている気がしなくもないが

髪の色も目の色も違うし



なにより
心の奥のなにかが違うと言っている。

なにか?

あ、あの

……



引っ越してしまったのだろうか。
何処かへ嫁いでしまったのだろうか。


そう思っていると
女性が口を開いた。

……あの、もしかして……サリエスさん?

何故その名を!?


それは俺の前世での名前。

無論、
くたばる前に名乗った覚えもない。

姉がよく言っていました。
昔からのお友達なんだって。
……またきっと訪ねて来てくれるだろう、って

姉……


と言うことは
目の前の彼女はレナの妹、か?



「またきっと」と言うことは
あの時きみは
俺だってわかっていたのか?

それでレナは……!
あ、いや、ええと、

お、お姉さん、は?

姉は……








































彼女の墓は共同墓地の片隅にあった。

妹さんが言うには
流行り病で亡くなったらしい。

何度も聞かされたんですよ。
私も両親もずっと作り話だと思っていたんですけれど

でも本当にサリエスさんがいらっしゃるなんて。
こんなことってあるんですねぇ

……






ああ。

俺はどうしてもっと早くに
転生しなかったのだろう。



どうしてもっと近い国では
なかったのだろう。




またきみの魂が
この世界に戻って来る日が来るのなら



俺の魂も
きみの記憶を抱いて戻ってくるのなら


次は……同じ時を生きよう

約束だ、レナ



この転生は


きみが俺に
会いたがっているからだって





















そう

思ってもいいかい?




























pagetop