【第1章:彷徨い人】

























あの戦争から30年。

アストリーテは
地図上ばかりではなく
人々の記憶からも姿を消しつつある。









かつて城のあった場所は
瓦礫の山と化し

誰が作ったのか
板を打ち付けただけの十字架が
何本も立っている。






あの下に誰が埋められているかは
わからない。

王かもしれないし
メイドかもしれない。














レナの遺体は
あの花の下に埋めた。




世話をする者のいなくなった花園は
その後、枯れ果てたと聞く。































戦火を逃れた人々は
敗戦国の民として苦渋を舐めながらも
日々暮らしている。


国は滅んでも
人は滅びない。


だが




ここはもう
アストリーテではなく

人々も
アストリーテを名乗ることはない。






























……ふう


あれ以来俺は、根無し草のように
ふらふらと彷徨い続けていた。



城を、職を、守るべきものを失い
生きる気力すら無くし
そのまま何処かで
野垂れ死ぬつもりだったのだが

騎士として鍛えた身体は
そう簡単にくたばってくれなかった。







かと言って
自ら命を絶つのも






魂は廻るものなのよ。
自らその輪廻を絶たない限り

だからまた何処かで出会うかもしれないわ。何百年か何千年後かに

はあ……

レナに言われた一言が引っかかって
実行に移せない。












レナの魂は
今、何処にいるのだろう。

まだあの花の下で
眠っているのだろうか。






























しかし、
そんな思い出に浸るのも
今日が最後。

やっと身体にガタが来てくれた。

















眠るなら




























レナの眠る場所で。




















そう思って此処まで来たのに……
詰めが甘かった。






視界が暗くなる。


死が
もうそこまで来ている。


なんだよ……今までほったらかしだったくせに連れていく時はせっかちだな

死神さ、ん……よぉ……






















レナ。
















やっと

きみに会える――































行き倒れらしいわ、かわいそうに

この紋章……アストリーテ軍のだ。
最後は故郷で、って帰ってきたのかもなぁ


声が聞こえる。

道端で死んだ俺のまわりに
人が集まってるようだ。

埋めてやるか。共同墓地に

そうね。みんなと一緒なら寂しくないわね



待ってくれ。
どうせ埋めるなら、

お城のあったところに埋めてあげて



――え?

お花が咲いているところがいい、って

花? そんなところあったっけか?

ほら、神殿に咲いていたじゃない?



その子は……誰だ?
何故俺の思っていることが、

お花、好きなんだって
















花はお嫌いですか?






レ、ナ?
















レナ。
きみなのか?


魂が再び廻って来たのか?





















それなのに俺は、



きみが戻ってきてくれたのに俺は、


























……ここで、死ぬのか?















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