【序章:滅びゆく城 Ⅱ】




































ここは
周囲を列強に囲まれた小国
アストリーテ。


今までに何度も
侵略の危険に晒されているこの国が
未だに独立していられるのは

神殿に座す
『祈りの巫女』のおかげだと
言われている。














巫女の祈りは
平和の祈り。


その祈りは

自国だけでなく
隣国にも及ぶと言われている。




それが今まで
抑止力になっていた。





























あなたがサリエス?





あたしはレナ。
この神殿の巫女よ



俺が拝命したのは
その巫女の護衛。

彼女は王城の最奥にある神殿で
日夜、祈り続けている。























































……飽きませんか?

いいえ。
飽きることなどなにも

しかし、ここには花しかない

花はお嫌いですか?

……


彼女はこの国の平和の象徴。











彼女を殺せば








この国は滅ぶ。




































さしたる魅力があるわけでもない小国に
手を出したのは
隣国からすれば戯れか。

もしくは
魔がさしたのか。

















ただ、間の悪いことに、

そこの騎士様、お花はいかがですか?

女性にプレゼントしたら喜ばれますよ


俺はその日、城下町にいた。




















花だらけの神殿に
こんな小さな花を持って行ったって
喜びやしないと思ったけれど

花はお嫌いですか?






……じゃ、1本

まいどあり!
ピンクの薔薇の花言葉は『恋の誓い』。
騎士様と、その薔薇を受け取る誰かさんに祝福を

なっ!?


そんな花言葉の花を持って帰って
妙な誤解を受けないだろうか。

しかし今更
買うのをやめるのも申し訳ない。









そんな小さな逡巡は






何処からかの悲鳴に
かき消された。






















一瞬にして
目の前の光景が暗転した。





城下町は火に包まれ、

先程まで笑っていた人々に
悪魔のような男たちが
剣を振り下ろしている。















さながらそれは
地獄絵図。

つい今しがたまでの平和が
音を立てて崩れていく。

「俺たちがなにをした」

そんな問いかけは
もはや意味をなさない。



戦とは
いつだって察し得ない理由で
始まるもの。































逃げ惑う人々を誘導し、
敵兵を切り捨てるのが精一杯の中、


追い打ちをかけるように

高台にある城から
火の手が上がるのが見えた。

……レナ……!




城には




城の奥の神殿には――




































































レナ!

返事を! レナ!!

辿り着いた神殿に
ひとの気配はなかった。






レナ!




しかし彼女は巫女。


この場を離れることなど
ありはしない。












































































レナあぁっ!!





















その日、
我が国は滅んだ。

ひとりの巫女を道連れに。










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