遠くで鳴り続ける音が僕を呼ぶ。

音は徐々に大きくなって、僕は重たい瞼を上げた。

カーテンから陽の光が洩れていて朝を告げる。

もう少し寝たいという欲望を懸命に振り払い、体を起こす。

目覚まし時計を止めてベッドから出る。
その
今日は土曜日で学校は休みだが、父さんの分の弁当を作らなければならない。

警察官である父さんはほとんど家にいることはない。

それでもどんなに遅くなっても必ず家に帰ってきては朝早くに出勤する。

父さんなりに母親がいない事を気にしているのだろう。

そのおかげで僕は身の回りの事は全部自分でやらなければいけなかった。




キッチンに向かうと何故かそこにのんびりとコーヒーを飲んでいる父さんがいた。

柏ノ木 千歌

あれ、なんで起きてるの?

いつもならまだ寝ているはずだ。

声を掛けると父さんは僕に気付いて笑顔を向ける。

柏ノ木 栄治

おう、おはよう千歌!今日は休みを貰ったんだ!

柏ノ木 栄治

だから一日ずっと千歌と一緒にいられるぞ♡♡♡

柏ノ木 千歌

分かった

柏ノ木 千歌

じゃあもう一回寝てくる

弁当を作らなくていいなら起きてる意味はない。
寝よう。思う存分に寝てやる。

柏ノ木 栄治

待って、待って千歌!

柏ノ木 栄治

昨日父さんが言った事もう忘れたのか!?

肩を掴まれて止められる。

柏ノ木 千歌

……何か言ったっけ?

柏ノ木 栄治

忘れないで!!

思い出す努力をしない僕にもう一度話すために口を開く。

柏ノ木 栄治

前にお前に会わせたい人がいるっていうのは言ったな?

柏ノ木 栄治

今日のお昼くらいにその人が来るからきちんと挨拶をしてほしい

柏ノ木 千歌

……分かった

とりあえず、お昼はまだ先だから寝よう。

僕の性格を知っている父さんはまだ寝に行くつもりなのだと分かっているのか、今度は引き留める事はしなかった。


お昼になった。

見出しなみを整えた僕はリビングで椅子を用意していた。

父さんの話では会わせたいという人とその息子3人の計4人が来るらしい。

今あるのは4人掛けのテーブルと椅子であと2つ足りない。

足りない分は僕と父さんの部屋から1つずつ持ってくる事にした。

父さんが30分くらい前に、迎えに行くからと出掛けていった。

時計を見れば午前11時45分を指し示している。

柏ノ木 千歌

そろそろ帰ってくるな

駅までだからそんなに長くは掛からないはずだ。

6人分のお湯をやかんで沸かしてすぐにお茶を出せるように準備する。


玄関から音がした。
どうやら帰ってきたようだ。

玄関に向かい、出迎える。

柏ノ木 千歌

おかえり

柏ノ木 栄治

ただいま!連れてきたぞ

父さんの後に入ってきたのは高身長でそこそこ長い髪を一つにまとめた優しい雰囲気の男の人だった。

この人が父さんの想い人だとすぐに分かった。

柏ノ木 千歌

父さんの好みそうな人だ

薫さん

こんにちは、初めまして

ニコッと微笑む姿は女の人にも見えなくもない。
だが、父さんは女の人とは再婚しない。

何故なら父さんは

     ゲイ    だから。

父さんは元々は普通に女の人を愛せていた。
だからこそ僕が生まれたわけだけど…。

父さんは母さんの事をそれは溺愛していた。
母さんが事故で亡くなって父さんは女の人と友人以上に親しくなることはなかった。

その理由は知っている。

父さんは母さんだけを生涯愛しているからだ。

…でも、父さんが男の人を好きになった理由は知らない。

それでも僕は気にしない。
父さんが誰を好きになろうが僕は何も文句とか口出しをするつもりはない。

だって父さんが選んだ人だから。

警察官である父さんは人を見る目は良いと思っている。それに変な人には引っ掛からないだろう。

だから僕も簡単に受け入れられる。

柏ノ木 千歌

こんにちは…

会釈して4人分のスリッパを出す。
姿は見えないがきっとまだこの人の息子3人が玄関に入りきらずに外にいると思ったからだ。

柏ノ木 千歌

どうぞ

うちの玄関はそんなに広くない。3人くらいが限界だろう。
だとするとさっさと中に入れるべきだ。

薫さん

お邪魔します

リビングに通す。
僕はすぐにお茶を淹れるためにキッチンに立った。

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