怒り、憎しみ、悲しみ、諦め、絶望――――。

色々な負の感情が背負ったその背中はぐらりと揺れ、静かに夜の闇に消えていく。

やがて命の途絶える音が響いた。

……

俺はそれを見届けて電話を掛ける。

見届けました

それだけ言って電話を切った。

最後にもう一度中身のない器を見下ろした。

その周りに集まって人々は悲鳴を上げる。

もう助からない。


誰かがきっと通報する。

こんな人間にはなりたくないな。

責任を押し付け合い、その程度の人間だと蔑む。

『死ぬことはない』、『何か他に方法があるはずだ』などと無責任な言葉を浴びせ、裏では自分じゃなくて良かったと人の不幸を嗤う。

そうして自分に火の粉が降り掛かろうとした時、人はすぐに掌を返して裏切る。


偽善


なんて言葉、生温いと思った。

信じて裏切られるより、真正面から嫌いだと言われた方がまだマシだと思う。


先ほどの人間は信頼していた者に裏切られ、心に深い傷を負った。

そして、先の見えない未来に絶望し、『人間』である事をやめた。

俺はそんな奴の最期を見届けて報告するのが仕事。

上の奴らが受け入れるかどうかは俺には関係ない。

空を見上げ、白い息を吐く。

俺も人間にだけはなりたくねーな

誰に聞かせるわけでもなく呟く。







――――あの人間の死を心から悲しむのは何人いるだろう?

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