深夜三時。

あれから店も閉めず、ぼんやりと過ごしていた。
ダイゴはやたら眠たそうにしていたので帰宅させた。

今は一人。

ほぼ無意識に煙草を吸い、ビールを流し込む動作を繰り返していた。

まるで壊れた玩具のように…。

一体、自分は何なんだろうか?
夢を棄て、全てを無くし、まともな職にも就かず
最終的に小さなBARのマスターとなった…。

気怠い毎日。

不安定な思考。

そして孤独。

それは煙草の煙と共に天井へ静かに舞い上がっては消える。さすがに吸い過ぎたのか煙草はもう残り一本になっていた。

これもいつもの事だ。
煙草を買う為に店を閉めてそのまま家に帰る。
家と言っても古い木造アパートに一人。
ダイゴという理解者がいる事を除けば、店にいる事となんら変わりはない。

しかし一人でもそう言う人間がいる事は、
唯一の救いなのかもしれない。

もし、それすら存在しなかったら…?

マスター

やめよう…つまらん事を考えるのは。

一人うそぶき、店の鍵をじゃらつかせながら席を立ったその時だった。

ぎくり、として振り返る。
そこには黒いコートを着た若い男が立っていた。
髪はぼさぼさで顔は前髪ではっきりとは見えない。
俺より背は高く、がっしりとしている。
だが、今にも倒れそうな程にその顔は青白い。

マスター

…いらっしゃいませ。どうぞこちらに。

男は無言でふらふらと歩き、カウンターに座った。
俺が何にしましょうか?
そう聞いても返事一つしない。
もう店閉めます、そう言えば良かったなァ…と後悔した。

マスター

あの…何にします?冷えてますからね、体が暖まるやつでも作りましょうか?

???

お前、亡霊を信じるか…?

マスター

え?…いや、信じないと思いますけど?

???

……。

不敵に男の唇が歪んでいく。

得体の知れない不安が虫のように身体を這いずり回る。

…虫の知らせ。

どうやら俺の直感は身の危険を察知したようだ。

マスター

こいつは…なんなんだ。

???

手首に傷があるな…

男の死んだ魚のような眼。
そして過去の苦痛が心臓を鷲掴みにする。

血が逆流し、波を打って身体を荒々しく駆け巡った。

マスター

あんた!
何を言ってる!

???

怯えてるのか?…声が震えてるぞ。

???

お前は罪を犯したんじゃないのか?
それを償おうとは思わないのか?

???

その償いの手伝いをしてやろう…

マスター

はっ…離せッ!

男の大きな手がジリジリと首を締め上げていく。
片手で俺は宙に持ち上げられてしまった。

意識が泥の沼に沈んでいく感覚。

俺は殺されるのか…。

???

救え。
悩み抱える者を。
無駄に苦しむ者を…

声を出す事も、動く事も出来ず
男の言葉に飲み込まれ、
ゆっくりと視界が闇に堕ちていった…。

To be continued…

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