月の見下ろす夜闇の中で、我は勇者に殺された

お前の勝ちだ
勇者よ

…………

どうした。喜べ
それが勝者の特権だ

吐き出しそうになった血を無理矢理に飲み込み

      我は静かに呼び掛ける

  月の白光が如き我が自慢の毛並も血にまみれ

   すでに死に体となった我が身なれど

  魔の王たる誇りまで殺されるつもりはない

美事だ。よくぞ我を倒した
これにてこの世界は人の世
千年の繁栄を享受するが良い

恨みの一つも口にしないのですね

舐めるなよ、人の子

殺す者とは殺される者
我はお前を殺すつもりであった
なればお前が我を殺した事に
なにを呪う事があろう

我が最期を汚す気か、勇者よ

……何か、残す言葉はありませんか

ない……と言いたい所だが
そうだな――

  あまりにも自分を殺した男が弱々しくて

   つい、悪戯じみた想いが湧いて出る

殺した者を気に病むか
本当に、惰弱なヤツだ

  なぜだが苦笑するような気持ちを胸に

我は笑うように魔王としての最期の言葉を口にした

もし生まれ変わりとやらが
あるのなら再びの戦いを

その時は、また命を懸け戦おうぞ

もっとも、お前ではなく
お前の子孫とになるやもしれんがな

忘れるな! 勇者よ!
子々孫々まで我の名を
語り継ぐが良い!!

ふ、ふふっはははっ
ははははははっ――

    どこか満足する気持ちを胸に

   我が体は世界に融け込み消えていく

     あとには何も残らない

     意識は無明の闇に落ち

  二度とは醒めぬ眠りに落ちて行った――











はずだったんだけどなぁ……

    いたいけな幼女の声が響く

   認めたくはないが、かわいらしい

うぅ、さらさらした毛もなく
こんなもっちもちのふにふに
した頬になるとは

とてもではないが
配下の者どもには
見せられぬわ

  全く持って認めたくない事ではあるが

    勇者によって殺された我は

   人間の子供に転生させられていた

それだけならば
まだ良かったと
いうのに――

   そう、それだけならば悲嘆はすれど

       絶望など程遠い

  いやむしろ、再び勇者と戦えるチャンスを

 手に入れられるかもしれない事に喜んだだろう

いや、そのために
あっの腐れ邪神の
口車に乗ったのだからなぁ

    思い出しただけでも腹が立つ

   よりにもよってあの邪神めは――

鈴音~

うっ……お父さん

よりにもよって、転生先を勇者の子供にしやがった

          しかも――

あぁ……

今日も鈴音はかわいいな~
かわいいかわいい!!

あ~も~かわいい~
かわいすぎてお父さん
今日も仕事をぶっちして
早退してきちゃったぞ!

   勇者のヤツはどうしようもない

     親ばかになっていた 

勇者にぶっ殺されて転生しました

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