「樫の木島の夜の子守唄」
おお、さすがナルサワくん。美大生ともなるとさすがの画力。まるで南風に吹かれる樫の木の躍動感が絵を飛び出てここ浅草にも伝わってくるような
枯れ木は黙ってて。
カサカサうるさいから。
ええ!褒めてるのにそんな言い方無くなくない?
って不覚にもハモっちゃったよ。
思わずオザケン電撃復活に今夜もブギーバック。
ところでベイビーブラザー。さっきからなんでまたそんなトロピカルな絵を?
Check it down your men?
大学のゼミの課題が絵本なんすよ。
これちゃんと仕上げないと単位マジでヤバいんで。
ウェイウェイウェイウェイガッデム!
なんだねナルサワ君。劣等生だったのかね?
どれどれせっかくだから私が読んで講評をしてしんぜよう。
心置きなく聞いてくれたまへよ?
いや、そういうノリ全然要らないんでホント。
触られるのすら無理なんですけど。
まあまあ、そう照れなさんな。
え、痛い
調子乗るな?
あ、あはは!
ところでさあこの部屋空気悪くない?
埃っぽいし、何か日当たり悪くて薄気味悪いし
あ、うん。
まあお前の店だけどな。
お、お前って言われた
ま、窓開けるねとりあえず!
そうすればちょっとナルサワくんの荒んだ心も少しは晴れるかもよ!
おいじじい!
さっきから何余計な事してるんだ!
逆に埃が舞うし、絵本が飛ぶだろうが!?
バカか!?!
今度はじじいってストレートに言われた!!
ひーん、ごめんよう。
もう怒らないで下さいよ~
「樫の木島の夜の子守唄」
この世界のどこかの
小さな国の小さな島で
大きな樫の木が目印で海岸が
見渡せる丘の上に家が建っていて、
そこには漁師とその息子が住んでいました。
漁師の妻は息子の出産後、
持病の心臓病を悪化させ、
3年前にこの世を去っていています。
彼が漁に出ている際、
趣味の油絵を描きかけのまま息を引き取ったのです。
それと時を同じくして彼らの町にはとあるジンクス、
おまじないが流行り始めます。
樫の木の葉を自身の枕元に忍ばせると大人は悪い夢を見なくなり、
赤子は寝つきが良くなるというのです。
樫の木のたもとに住む漁師はいつしかこの木の主と称され、
町中のみんなから信頼を得ました。
しかし、
その一方で彼を不安にみる声もありました。
…
その漁師は毎夜眠らずに、
樫の木に手を当てながら何かを呟いているというのです。
物心ついた息子も同い年の友達にその事をからかわれて、
ある日ふと父に思い切って聞いてみる事にしました。
なんでお父さんは毎晩眠らないで樫の木の下にいるの?
丘から海を眺めて明日の漁の調子を考えているんだ。
星や月の動きも見ている。
お父さんが気楽に寝るのは釣れない船の上だけさ。
友達にもそう伝えておきなさい
あのね父さん。
さいきん僕は変な夢を見るんだ