竹内 蘭

父上、今の話は本当ですか?

竹内 秀政

本当だ。柳は次の戦で初陣する

…………

竹内 蘭

どうして2年も経って、今になって彼を戦に出そうなどと……殿の考えが私には分かりかねます

竹内 秀政

我らは殿の心中を全て察する必要はない。然るべき時に殿のお役に立てるように努めるまでだ

竹内 蘭

それは柳も、ということでしょうか?

竹内 秀政

勘違いするなよ。柳はあくまで捕虜。彼が松尾家に認められることは非常に難しいということはお前も理解しておけ

竹内 蘭

ですが、それでは…………

竹内 秀政

そんな顔をするな。これよりの戦で柳が戦功をあげていけば、わしが柳を推すことができるようになるのだ

秀政様……?

竹内 秀政

いつの間に娘と親睦を深めたのかは知らんが、わし自身はお前のように気骨のある者は嫌いではない。鬼とはここまで実直な生き物なのかとすら思えてくる

竹内 蘭

そうですね。2年間も殿の真意の見えない「遊び」に耐え抜いて、一度も弱音を聞いたことありませんし

そ、そんな大仰なものではありません

あの日から、僕はここで生きねばならないと察しました。それならば亡くなった同胞の分まで這ってでも生きようと……ただそれだけです

竹内 蘭

けど、柳は辛くないの?あなたがこれから戦うことになるのは人じゃなくて、同じ妖怪や鬼なのよ

秀政殿のような武人の前でこんなこと言うのもどうかと思うが、僕はご恩に報いるという意味をようやく知りました

久道様が仰られる様にこの身はどうやっても鬼でしかありません。しかし、それでも殿は僕を生かしてくれました。たとえどんな思惑を考えていようと、僕にはそれで十分なんです

その恩に報いるためなら、同族すら斬ってみせます

竹内 蘭

柳……

竹内 秀政

まことにあっぱれな気概。人間すらなかなかできない決意よ

竹内 秀政

何か入用なら蘭に伝えよ。わしができる限り手助けいたそう

はい。ありがとうございます、秀政殿!

それに、きっと僕が一番会いたい人はこの世にいない……

死して君と同じところに行けたなら……どうか僕を思い切り怒ってくれ、楓

松尾 久道

高山殿、よろしいか

高山 智照

これはこれは、松尾久道殿。私のような若輩に何かご用で?

松尾 久道

若輩などと笑えぬ冗談はよせ。私よりも一回りは上ではないか

高山 智照

いやはや、見破られておりましたか

松尾 久道

まぁ良い。ところで、先の軍議で決まったことだが…………

高山 智照

例の柳という鬼のこと……ですかな?

松尾 久道

そうだ。貴様は奴をどう見る?

高山 智照

……それを知ってどうしようと?仮にも松尾家の次期当主である貴方が奴を持て余しているとでも?

松尾 久道

奴は父上の玩具でしかない。ただ気まぐれに捕らえてきただけだ

高山 智照

久道殿、それはそう思い込もうとしているだけでしょう?あの弾正殿がただの玩具として鬼の子供を2年も生かしたままにしますでしょうか?

高山 智照

あなたはよもや、恐れているのではありますまいな?鬼ごときに次の当主の座を脅かされるのではないか?と

松尾 久道

…………っ!

高山 智照

……用件を伺いましょうか

松尾 久道

次の戦のいつでも構わん、事故に見せかけて柳を殺せ

高山 智照

理解しかねますな。彼はこれからの戦に必要不可欠だ。機内だけではない、やがて日本を治めるために他の軍にはない最大の利点をわざわざ捨てようと?

松尾 久道

だが、それでは結果的に鬼どもや妖怪どもに人間が屈したことに他ならぬ! 人ならざる者達に怯えながら治める日本に、未来があろうはずがない!!

高山 智照

久道殿、お静かに。どこで誰が聞いているのかもしれぬのですぞ

高山 智照

ところで、私がそれに従ったらどんな益を与えてくれるのでしょうか?

松尾 久道

私が松尾家を継ぎ次第、高山家を最高の役職に就かせ、領土を今の倍にする。それでどうか?

高山 智照

なるほど、どちらにせよ弾正殿が亡くなってからということですか。まぁいいでしょう

高山 智照

……後ろ盾は、期待しておりますよ?

松尾 久道

ああ。何としてでも柳を亡き者にするのだ。期待しているぞ、高山殿

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