―本陣―

島 清明

殿、鬼達が大規模な下山を開始。数刻後に我らの部隊と交戦すると思われます

松尾 弾正

山の出入り口は3つだったな?

島 清明

はい。既に友軍が待機しております

松尾 弾正

いいだろう。さがれ

島 清明

御意に

竹内 秀政

首尾は上々ですな、殿

松尾 弾正

……うむ

竹内 秀政

惜しむらくは、敵の全体の兵数が分からぬということ、ですかな。兵力で勝っているか否かで戦は大きく変わります故

松尾 久道

何も心配はいらぬだろう。こちらは機内の大名の兵力を結集させ、3万はくだらないのだ。あの山の中にそれと同等の兵力があるとは思えん

竹内 秀政

確かに、久道様の言も一理ありますが……

松尾 弾正

何か策を用いてくる……か

松尾 弾正

秀政、各部隊は確かに配置されておるのだな?

竹内 秀政

はい。全部隊合図があるまでは動くなと

松尾 弾正

…………

―東の部隊―

高山 智照

ほぅ、あれがかの妖怪の巣穴か。十分に離れたここからでも殺気が感じられる

高山 智照

故郷を見た感想はあるかな、柳殿?

…………

高山 智照

ずいぶん自然豊かではないか。攻め入った軍が帰ってこないのも頷ける。あそこは奴らの家であり庭だからな

高山 智照

なにせ2年以上も我らの進軍を撃退しているのだ。此度の戦も長引くだろうな

高山 智照

さて、そこで柳殿に端役を差し上げよう

は?

うっ…………

高山 智照

おや、痛かったかな?仕方ない。これは交渉だからね、君と良好な関係を築くために

何を……仰って……っ

高山 智照

君は命からがら人間の手から逃れた鬼の捕虜だ。山に駆け戻り同族の助けを乞うがいい

高山 智照

だが、重要なのはそこで私の名前を教えることだ。松尾家に虐げられていたが高山という人間に逃げる手引きをしてもらったとな

そんなこと…………っ

高山 智照

言えぬか? そのために今から君と交渉するのだからな。頼むから騒がないでくれよ、殺しはしないさ

…………っ!

高山 智照

さぁ、なかなか良い話ができたのではないか? 何を言うかは覚えたかな?

…………

高山 智照

覚えたかな?

ああっ……!!

高山 智照

高山という人間に助けられた、そう言えばいいだけだ。いいね?

…………っ

高山 智照

……まあいい。さっさと行け

………っ

……高山様、よろしいのですか? これが露見したら松尾家を敵に回すだけでは済みませぬぞ

高山 智照

気にするな。私は久道様に直に柳を殺すように命じられている。それまでは奴をどう使えとは言われていない。ならば少しはわが身のために働かせても支障はないだろう

高山 智照

これから先、機内や天下の統一を目指すのであれば鬼や妖怪を従えることは必至。松尾家が鬼を独占しようというのであれば、奴を用いて我が高山家も甘い汁をくすねようというわけだ

ですが、奴が素直に言うとおりに動くとは限らないのでは?

高山 智照

動くさ。そのために交渉したのだ。痛みを伴った事項はなかなか忘れることは出来ぬし、強迫観念に飲み込まれてしまえば、あとは簡単さ。言うとおりに動かなければ、より綿密に話し合うしかなくなるからな

…………

高山 智照

見たか、弾正殿。これが正しい捕虜の使い方よ

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