俺は
犯人の手がかりが欲しかった。


犠牲になった彼女たちのためにも


木下さんのためにも。







捕まえて
彼女たちの無念を、


いや
犯人の鼻を明かしてやりたかった。


























でも


それが灯里だったら?
































とにかく灯里に会おう

ここでウダウダと想像するより、本人に確かめたほうがいい


「森園灯里」に。







稀代の人形技師の顔の時には
いきなり切りかかっては来ないと

……そう、思う。





腕の傷が、ちりちりと痛む。



これは傷の痛みか
それとも――



























ずっと無表情のままだった紫季は

そんな晴紘に
なにか思い当ったかのような顔をした。

前々から思っていたのですが、晴紘様は灯里様の親のようですわね

はい?


親ではなくて、級友。

それはここに転がり込んだ頃から
言っていることだし
紫季も重々承知している。

承知しているからこそ
「たかが級友の分際で」と
嫌味が降り注ぐわけだし。





紫季の意図するところが読めずに
晴紘は目を点にした。

灯里様が懐くはずですわ

懐く? あれが!?

どこをどう見たら
懐いているように見えるのか。



顔を合わせない日が続くことも

顔を合わせても
口を利かない日があることも

決して珍しくはない。






それどころか
灯里を犯罪者ではないかと
疑っているわけで。


























それなのに
こともあろうに「親」?



























目が腐っているのかもしれない

これも妄信故の歪みなのだろうか。



晴紘は黙ったまま
紫季の言葉を待った。


聞かされるのが戯言かもしれないが

他人に関心を持たない彼女が
なにを言い出すのか、と興味もある。




















……灯里様は昔からおひとりでいることが多かったので

それはある























学生時代も孤立していた。


その時は

灯里も自分たちのような俗物と
交わるくらいなら
ひとりでいるほうがいいのだろう

と、そう思っていたのだが


















晴紘様がいらっしゃった時も、たまたま学友だった縁を利用してたかりに来たのかと思っておりました

……



















否定できない。

なんせ再会した時の晴紘は
宿もなかった。
住むところなら何処でもよかった。

放っておいても
飯が三度出てくることに
内心、
歓喜したものだ。






















それが……車で十分もかからない距離にも関わらず心配してお迎えに行くなんて、

……

いや……そういう意味じゃないんだけど



どうも盛大な勘違いをしているようだ。

第一、西園寺邸が
此処からそんなに近い距離だと
いうことすら知らなかった。





近い距離にもかかわらず
丸1日経っても帰って来ないことには

それはそれで
疑いばかりが高まるのだけれど







しかし
本音を言うわけにはいかない。


純粋に身を案じていたのでは
ないだけに
親のように心配している、などと
表現されると立つ瀬がない。









 










思い返せば
この娘は感情表現が乏しい。

そうは見えなかっただけで
普通に心配していたのかもしれない。





共犯かもしれないなんて
濁った目で見てごめん

と、晴紘は心の中で謝罪する。






















それにしても、

……紫季はいつから灯里のそばにいるのだろう

親のよう、と言うなら、身の回りの世話をしているこの娘のほうがずっと近いだろうに











【肆ノ弐】巡る想い・弐

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