西園寺邸に行ってくる


晴紘は紫季の手から外套を奪い取った。
着込みながら玄関に向かう。




























西園寺の屋敷には
使用人も大勢いることだろう。


もしかしたら出入りしているうちに
その中からめぼしい娘を
見つけたのかもしれない。









残る部位は顔と頭。





顔だけで言えば自動人形のほうが、と
思うところだが






さすがにそれは
除外してもいいだろう。












お迎えなど行かなくとも帰って来られますわ。子供ではないのですから



目の前のこの娘も
顔の造形は決して悪いほうではないが

そうじゃない。けど



機会はいくらでもあっただろうに
今までそれをしなかったことを思えば

きっと
手にかけるつもりはない。

























そもそも仲間なら
対象にするはずもない。























……俺は、灯里を犯人にしたいのか?



顔もはっきりと見たのだ。
違うと思うほうが無理がある。









でも、もう片方で

俺は
灯里が犯人でなければいい、と……




「犯人ではない」と
思い込むための理由を探している。























しかし
ここで見逃せば










灯里はさらに
手を血で染めるだろう。


























それは駄目だ

どうなさいました?
先ほどから黙り込んで

あ、いや、ええと



もし本当に灯里が犯人なら。


西園寺の屋敷で
行き帰りの道中で

他の獲物を
狩っているのだとしたら。


俺はそれを止める責任がある。










しかしそれを
この少女に言うのは憚られた。






紫季が灯里の正体を
知っているのなら

灯里を疑う自分に
なにかしてくるかもしれない。















そして











もし彼女が
共犯でも何でもなかったのだとしたら

……



どれだけ衝撃を受けるだろう。


















……言えない

………………


探るような視線が痛い。

晴紘様

は、はい!

やはりお迎えに行くまではないと思いますが

で、でもさ、ほら、変な事件も流行ってるし、







俺は、どうしたいんだ?




俺は灯里を犯人にしたいのか?
灯里を捕まえたいのか?
灯里を逃がしたいのか?
灯里が犯人と知られないように細工したいのか?


靴を履きながら晴紘は自問する。

……否



答えなら























もう
出したはずだ。


















【肆ノ弐】巡る想い・壱

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