彼が去ったあとも
晴紘は立ち上がることができなかった。



これでいいのか?

これで、
灯里は戻ってくるのか?



しかし、戻って来たところで
もうそのことに
何の意味があるだろう。










捕まえればいいのか?















……見ないほうが、良かった


知らなければ
今までどおりの暮らしが続いていた。

灯里と紫季と3人で。

……彼らが
晴紘と暮らしたがっていたかは
甚だ疑問だが。







そして
手がかりも見つけられず
犯人も挙げられず

木下女史の弔いもできないまま
風化して

迷宮入りファイルが1ページ増える。








そのほうが
良かったのか……?















俺は、

大、庭く……


木下女史を見殺しにした。
殺されることがわかっていて放置した。






……俺が殺したも同じことだ。

俺に、
灯里を捕える権利など
ありはしない。
























































いつしか
晴紘は駅前通りを歩いていた。

駅に近づくにつれ、人が多くなる。
肩がぶつかる。




気をつけろ!

と怒鳴りかけた人が
晴紘の様子に怪訝そうに眉をひそめ、
口を噤んで避けていく。




……灯里


無意識のうちに、そう呟いていた。

女に振られて
気が変になってしまったのだろう、と
思われたかもしれない。
















……

つい先ほど
威勢のいい掛け声をかけてきた新聞売りも、
黙ったまま胡乱な目を向けてくる。













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