ああ、またここに来た。
頭上に見える剥き出しのコンクリートと、
タン、タタンというリズムに
晴紘は笑みを漏らす。
ここは駅近くの高架下。
ここを出て
あの坂をのぼれば駅に出る。
駅裏で木下女史が殺された、
あの駅に。
今日はちゃんと
十一月六日だろうか。
しかし
都合よく新聞は飛んで来ない。
屋外には
時間を知らせてくれるものは
いくらでもあるが、
月日を教えてくれるものは
ほとんどない。
路肩で新聞を売っているリヤカーの前を
ゆっくりと通る。
通り過ぎざまに
新聞の日付を確かめる。
十一月六日。
間違いない。
旦那、新聞いりやせんかね
……
かけられた声に片手を振り、
晴紘は駅裏に向かう。
トタンを重ねた塀に遮られ
駅裏には表の喧騒が全く届かない。
煌々と照らされた灯りも、
高く張り巡らされた塀の前では無力だ。
汚れや品のない落書きを
浮かび上がらせるに留まっている。
なにかがぶつかる音がした。
鉄パイプの骨組みが揺れる。
塀の向こうに誰かいる。
そして、それは十中八九、
想像しているとおりの人だろう。