まったく。あいかわらず塵灰のようにすぐにどこかに消える

誰のことですか?

 元々他人を好きにならない小岩くんですが、そこまでひどいことをいう相手とはどんな人なんでしょうか?

シャーロック・ベイカー。僕の父親だ

え? えぇ!?

家での姿を見れば幻滅するかと思ったが、どうやら逃げられたようだね

 小岩くんはテーブルに残されたメモを私に見せながら、悔しそうに顔を歪めている。

『にほいそ わひ つよか
 りはほはそほいわ りつ りか へそりにとほ
 りね むりをを ろほ わほをねほに
 へそよわ ひよなそ へいねちほそ 』

こんなメモがあった

これは、暗号ですか?

あぁ、そういうことらしい

 小岩くんはこの暗号を見て、また溜息をつきました。もしかして小岩くんのあの推理力はこうやって鍛えられてきたんでしょうか?

もしかしてもうわかったんですか?

まだ読んではいないけど、だいたいの推測はついているよ。これは

待ってください!

 解説を始めようとした小岩くんの声を遮るように手のひらをかざして制します。そんな簡単に諦めてたまるものですか。

私だって暗号くらい解けます!

……まぁ、それは自由にしてもらって構わない。あまりいいおもてなしも考えていないしね

 小岩くんはメモを読んですぐに内容を理解したみたいで、私にメモを渡してくれます。そんな、これがもう解けたなんて。

これ、簡単なんですか?

それほど難しくはないと思うよ

 小岩くんはキッチンの方で冷蔵庫を開けると、カップのアイスクリームを一つ取り出してダイニングに座って食べ始めました。意外と子供っぽいところがあるんですね。

 私はメモに何かないかとひっくり返してみたら、裏に何かヒントのようなものを見つけました。やっぱり調査は大切です。

『 6/17 ねよるひよ
  6/20 をよかによか
  6/24 たいをりつ 』

うーん。どういうことでしょうか?

わからないなら早めに諦めた方がいいと思うけど

いいえ。私だって推理小説を読んでいるんです。このくらい解いてみせます

 とは言ったものの何が何だかさっぱりわかりません。この裏に書いてあるヒントの数字。最近どこかで見たような気がするのですが、いったいどこだったのか。

 うんうんと唸り声を上げて悩む私を、小岩くんは少し楽しそうに見ていました。私が悩んでいるのが面白いんでしょうか。それとも意外とアイスクリームが好きだったりするのでしょうか。でも私がそのアイスをもらうとしたらこの暗号が解けた後です。

 私はまた暗号とのにらめっこを再開したのでした。

三話:書き置きは暗号で(事件編)Ⅲ

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