完全に興味がないものだと思っていた小岩くんが、意外なことを言ってきたのはその日の放課後のことでした。
完全に興味がないものだと思っていた小岩くんが、意外なことを言ってきたのはその日の放課後のことでした。
いつもなら教室に誰もいなくなるまで本を読んでいるか、誰よりも早く教室から出ていってしまう小岩くんが、終礼と同時に隣の席に座った私に声をかけてきたのです。
ちょっといいかな?
え、え。私ですか?
君以外にいないだろう
小岩くんが私に声をかけた。それだけでにわかに教室中がざわつき始めました。担任の先生も職員室に帰る足を止めて、事の成り行きを窺っています。それほど小岩くんから話しかけてくるというのは珍しいことなのです。
この後、暇があるなら少し付き合ってもらえるかな?
は、はい。構いませんが
もしかすると、この人は偽物なのではないでしょうか。私に声をかけるなんて怪しすぎます。
僕が偽物だと思うなら断ってもらっても構わない
いえ、そんなこと思ってませんよ
どうやらこの鋭さは本物のようです。それなら断る理由もありません。私は素直に小岩くんについていくことにしました。だってここで断ったらこんなこと二度とないかもしれないんですから。
それで、どこに?
僕の家だ
帰り道、いつもは私が後ろをついていくだけの道を並んで通っていきます。あの小岩焔が誰かと一緒に帰っている。それだけで注目を集めているみたいで、私はなんだか恥ずかしくなってきます。
小岩くんの、家?
あぁ。シャーロック・ベイカーが気になるんだろう? うちに来て思う存分幻滅するといい
いったいどういうことなんでしょうか?
どこか不穏な表情をしている小岩くんから私は何も察することなんてできません。ただ黙ってついていくしかないのです。
住宅地の外れ、周りに立ち並ぶ真新しいお家と比べると三倍は広そうな豪邸の前で小岩くんの足が止まりました。立派な建物なのにお庭は雑草が伸び放題で細く伸びる玄関までの道以外は荒れてしまっています。なんだかお化けやゾンビが出てきそうな洋館は一人だととても入れそうに思えません。
えっと
いや、それでいいんだ。君の考えている感想が僕も正しいと思う
小岩くんは鉄柵の門を開けて洋館の庭に入っていきます。私も慌ててその後ろをついていきました。
玄関ホールで靴を脱がないまま中に入っていきます。なんだか変な感じがしますが、小岩くんは当然慣れているみたいですいすいと歩いていってしまいます。
ここに住んでいるんですか?
そうだよ。趣味が悪いだろう?
いえ、そうは思いませんが
ちょっとお掃除が行き届いていないような気がするだけで、ちゃんと片付ければきっと素敵なお屋敷になると思うのです。なんだか私はシャーロック・ホームズの世界に迷い込んだみたいで楽しくなってしまいました。
こっちだ
洋館のダイニングキッチンは広々としていて十人くらいが入っても広々とお食事ができそうです。でも、シンクには洗い物がちょっとたまっていて、ゴミ箱からはインスタント食品や冷凍食品の袋が覗いています。
どこに行ったんだ?
小岩くんはどうやら誰かがいると思っていたようなのですが、ダイニングキッチンには人の姿はありません。
その代わりにテーブルの上に一枚のメモが残っていました。