佳穂と春都は互いに顔を見合わせた。
春都は制服が同じであることから佳穂の様子を確認したが、知り合いでもないらしい。
……?
佳穂と春都は互いに顔を見合わせた。
春都は制服が同じであることから佳穂の様子を確認したが、知り合いでもないらしい。
今の状況で他のプレイヤーを放っておくことはできないよな…。
ただでさえ緊急事態で外に出られないっていうのに。
春都が返答に困っていると、佳穂が珍しく前へ出て桜の手をとった。
そうだったんですね。
えぇ、大歓迎です。人は多いほうがいいですから。
私は佳穂。あの人は春都さん。
これからよろしく、桜さん。
よろしく、佳穂さん。
私に敬語なんて使わなくていいよ。
さん付けもいらないし。
私たちきっと同い年だと思うから。
それなら普通に話そうかな。
じゃあ、改めてよろしくね、桜ちゃん。
ものすごい勢いで築かれていく友情関係に戸惑う春都に、佳穂は桜に気づかれないように目配せをした。
一旦自分に任せてってことなのかな…
まったく素性の知れない桜に対する警戒を解くことは出来なかったが、彼女の情報を手に入れる手段もこれ以上警戒する要素もないため、春都は通常通り振舞う事にした。
じゃあ、そろそろみんなのところへ戻ろうぜ。
遅かったら心配されるからさ。
そうですね。特に異常はありませんでしたし、戻りますか。
佳穂たちは来た道を戻って歩き始めた。
森の奥に入ったわけではないからすぐに戻れる…はずだった。
何かおかしくないか。
そうですね…。
こんなに歩いてもたどり着かないなんて。
それどころか離れている気がします。
あれって…
目の前に現れたのは洞窟だった。
おそらくリズが言っていたのはこれのことだろう。
待って、この髪留め…
そこに落ちていたのは夏の髪留めであった。
到着地点から現在地はかなり離れているのは佳穂でもわかった。しかし、彼女たちが先にこの洞窟へ辿り着いたのなら、少なからず自分たちは彼女たちの話し声や足音を聞いているはずである。
どういうこと?
もしカレンたちに異常があったとしたら必ず連絡してくるだろう。こんな二人を置き去りにするようなことをするとは思えなかった。それはもしかしたら彼女の思い込みかもしれないが、彼女の手にある髪留めは間違いなく夏のものである。
ギン!!聞こえるか、ギン!!
春都はギンとのコンタクトをとってみたが、まるで通じていないようであった。
連絡がとれないってことは、向こうで何かが起きたかここの空間がおかしいかのどちらかってことか。
でもこの状況だと明らかに後者のほうが有力かもな。絶対何かに巻き込まれている。
春都は一瞬桜のほうを見た。
彼女と遭遇してから何かがおかしい。
俺の思い違いだったらいいけど…
とりあえず進んでみない?
ここをクリアすれば仲間とも合流できると思うんだけど。
そうしたいけど…
この三人で抜けられるかな?
大丈夫だって!
だってこれ体験版でしょう?
簡単にクリアできるよ。
そういえば、そうだった…
桜はこの仮想空間で異常が起きている事を知らないのだ。体験時間が終わらない事も、設定自体が狂っていることも。佳穂たちは、佳穂が一度現実世界に戻れたこととパートナーたちから説明を受けているが、桜はそもそもパートナーと逸れてしまっている。
じゃあ、早く進もうよ!
最初は何の疑問も抱かなかったけど、どういう状況でパートナーと逸れるの?
パートナーが脱落したのであれば、彼女がここまで生き残っているのもおかしい…
先頭に立って桜はどんどん暗い洞窟の中を進んでいく。
先ほどの対戦で大苦戦を強いられた自分たちとは比べ物にならないほど力強い足取りで。
まるで怖いものなどないかのように。
……!!もしかして、自分の手で…!?