デューク

オレは共に在ると誓った

アーク

…………

デューク

だから、彼女の最期も側に在った

アーク

…………ミランダは主に魔物に関する仕事を請けていましたね。結果として彼女が最後に請けた仕事は、【魔物を追い払う】こと

デューク

そうだ、獣を愛している彼女は魔物を殺すことが出来ない。だから追い払うための魔法を使った

 だけど、ニンゲンたちは、
 魔物を追い払うと依頼しておきながら、本当は魔物を殺すことを望んでいたらしい。

そして、

彼女は、

魔物たちと共に


瓦礫の下に……

 魔物を追い払おうと、追い込んだ彼女の上に瓦礫が落ちた。

  オレは何も出来ないから。側に居ることしかできない。

“どうして、
 オレは彼女に言葉を伝えられないのだろう”
 

 

 何度も嘆いた。

 言葉が届けば

ーー危険だ

 と告げられただろう。

 彼女は死なずに済んだだろう。

ーーごめんなさい

 ああ、この声さえも届かない。
 彼女には幻獣の言葉が、わからなかった。
 オレの口では人間の言葉を発することが出来なかった。

デューク

ごめんなさい

ミランダ

デューク………

 彼女は目を見開いで微笑んでみせた。
 それが、最後の精一杯の微笑みだったんだ。
 そして、

ミランダ

謝らないで

 って笑った。
 どうして、そんなことを言うのか分からなかった。

デューク

オレの言葉が

ミランダ

うん、わかるよ

 こんな時になって、ようやくオレの声は彼女に届いた。
 オレは早口で、言葉を発する。今まで出来なかったことが出来るのだ。嬉しくて、だけど悲しくて………

デューク

オレはミランダの望みを叶えたい

 そう言うと彼女は震える指先で指さす。振り返り、見て見ればそこには獣たちの姿があった。彼女の契約獣たちは、主の命が失われかけていることに茫然としていた。

ミランダ

獣たちを守ってあげて。私の代わりに

デューク

当然だ。オレは幻獣王だから。いや、オレはミランダに仕える獣だから、その願いを叶える

ミランダ

ごめんね

デューク

………任せて

 オレは何とか頷くことができた。

 顔を上げると、

 彼女は微笑んだまま、

 息絶えていた。

 オレは彼女の代わりに獣たちを守る方法を考える。
だけど、良い方法が思い浮かばない。

おい、デューク?

 獣の中から一匹が飛び出して、慌ててオレの背中に飛びついた。オレが何をするのか気づいている奴がいた。そのバカみたいな行動を、知っていて止めない。止めないどころか……

デューク

……クリス、付き合わなくても良いんだ

いや、オレっちは。アンタの側が好きなんだよ

 そう言って、力強くオレの毛にしがみついた。
正直、嬉しかった。孤独なのは、もう嫌だから。

デューク

何が幻獣王だ。何も出来ない出来損ないなのに。

この力はオレには荷が重い。

デューク

この幻獣王としての力を捧げる。その代り………人間の姿をオレに、オレたちに与えてくれ

 幻獣王としては未熟だった。

 誰にも認められなかった。

 だけど、


ミランダの契約獣としては


皆と対等に触れ合えた。




 楽しかった。


 楽しい気分を味わえた、

 そのお礼をしなければならない。



 オレは力を捨てた。


 そして、人間の姿を得ることに成功する。

アーク

馬鹿なことをしましたね。もう少し待っていれば良かったものを

 一人の男が現れた。容姿が違っているが、あの時の男魔法使いアークだった。ミランダが無謀な依頼ばかり受けるから、たまにこうして様子を見に来る。彼なりに心配だったのだろう。


 獣を救う行為を良く思わない人間は多いのだ。彼女の行動は異端すぎる。小言を言う為に、こうして現れて……………だけど、今回は手遅れだった。

デューク

……………迷惑はかけられない……そう、判断した

アーク

迷惑だなんて、私は思いませんよ

デューク

人間の姿を得れば、人間の世界でも自由がきくだろ。

アーク

確かにその通りです。ですが、貴方は幻獣です。人間ではありません。人間世界で生活することは過酷ですよ

 わかっている。

 オレはミランダを通してでしか、人間の世界を知らないのだから。

デューク

アイツらを護ることを約束した。アイツらを傷つける人間と戦うために、人間の姿を得る必要があった

アーク

私ならば、彼女が契約していた獣たちを引き受けることが出来ました

デューク

任せられない。あんたも人間だからな。あんたでは獣たちからの信用は得られないよ。みんな嫌っている

アーク

気を使ってくれたのですか?

デューク

違う。あんたが嫌いなのは、オレたちも同じだ。あんたと契約するぐらいなら、人間の姿を得た方がマシだと思ったまでのこと

 自分でも何を言っているのかわからなくなって目を反らす。
 早く、立ち去って欲しい。
 アークは慈しむような視線でオレたちを見ると肩をすくめてみせた。

アーク

まったく……私だって無理に契約はしませんよ。何かあれば頼ってくださいね。私は何処にでもいますから

デューク

頼りたくないけど、覚えておくよ。

 多分、余計なことも漏らしていた気がする。

 ほんの10年前の出来事。



 オレたち獣にとっては最近のことだが、この男はずいぶん老けたような気がする。

 気苦労の所為だろう、まだ四十路前だというのに。

 目の前にいるのはアークだった。

デューク

多分、オレは間違えていた。ミランダの代わりに獣を護れば良かった。オレがやっていたことはヒトゴロシだった

アーク

………

デューク

クリスはオレの行動を肯定してくれた。それに甘え過ぎたんだ、オレは手を汚し過ぎた。ここで罪を振り返れば、こんなにも穢れていたんだ。

デューク

たまに思う。オレと出会わなければミランダは死なずにすんだ。クリスもオレのバカに付き合わずに済んだ。オレと出会わなければ……

アーク

そんなことを言われては、きっと私とミランダが出会わなければミランダが貴方と出会うこともなかった……そうなりますよ

 アークは小さなため息を吐くと何処か遠くを見るように天井を見上げた。ミランダたちの過去をオレは知らない。

アーク

彼女の才能を見出してしまった、私の罪になります

デューク

そんなことはない

アーク

デュークはネガティブすぎます。幻獣王が全てを背負う必要はありません。貴方のお爺様は特殊だっただけですから

デューク

…………先代を知っているのか

アーク

一族にかけられた呪いを全て背負って息絶えた……そうですね

デューク

ああ……

 そうだ。あの謎の病。あれがオレや他の者たちに伝染しないように、あの人は老いた身体に全てを背負って………果てた。

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