私ってば、

どうしてこんな世界を考えたのだろうか。






幼い自分が描いた世界に驚愕する。

エルカ

こんな恥ずかしい世界を、私は……

ナイト

……

エルカ

……黒歴史だね

バタバタとしている私をナイトは楽しそうに見やる。

ふいに表情が真剣なものに変わった。

ナイト

いいかい?
実際に過ぎ去った過去は書き換えることが出来ない。
だから君が何もしなくても物語は進行するんだ

エルカ

うん。そうだね………過去は、もう終わった話だからね

ナイト

嫌なことも辛いことも、そのままに変えることは出来ないんだ。
ただ、その光景を見せられるだけ。

ナイト

その場にいるのに、触れることが出来ない……良い記憶なら良いだろうけど、辛い記憶ならば……

エルカ

それも、嫌だな……

ナイト

見たくない過去を見せられることもあるからな……

エルカ

この世界が、幼い私の空想した物語だとすれば……私はどうすれば良いの?

ナイト

空想された世界も厄介だよ。
自然に物語は動かない

エルカ

動かないの?

ナイト

ああ、なるべく君が描いた物語通りに、登場人物を結末に導くことが必要になるんだ。君自身がね……

エルカ

待ってよ!!
そ、そんなの、覚えてないわよ

無理な話だ。




幼い私の、覚えていない物語をそのままに完結に導くなんて。

私は、この物語のことを一切覚えていないのだ。





覚えていないのは、これだけではない。

私の過去の殆どを思い出せない。


図書棺の中にいたときは覚えていたことも、多分覚えていない。

エルカ

(大事なことが欠けているような………なんだろ、変な気分)

ナイト

完全に同じものでなくても良いよ。大袈裟に変わらなければ、少しぐらい、別の結末でも大丈夫だから。

エルカ

………でも、私には心当たりがないの

エルカ

……

ジワリ



ジワリ


何かがにじり寄る。この名前を私は知っていた。

 ーーー恐怖だ

結末を迎えなければ、永遠にこの世界で孤独に生きなければならない。

エルカ

(孤独で生きる……それでも構わない。けど、いけないことのような気がする。それに、こんなキラキラした世界は嫌)

ナイト

………

エルカ

ナイト

大丈夫、大丈夫。怖がらせるようなこと言って悪かったな。そんなに気を張る必要はない

ナイトがそう言って頭を撫でまわす。



 ーーー痛い、




けど安心感を抱いてしまう。

この物語を空想した頃、

こうやって誰かに頭を撫でてもらった。

大きくなってからは、そんなことはされていない。

ナイト

……

エルカ

……

ナイト

時間はあるんだからさ、落ち着いていきなよ

エルカ

うん、ありがと

ナイト

物語の主人公が誰なのかはわかるの?

エルカ

そうだね……

エルカ

(多分、あの人)

エルカ

主人公は分かるけど、どんな物語なのかは思い出せないの。昔の私の気持ちが……わからない

ナイト

まぁ、簡単なことじゃないよな

ああああ、こんなところにいましたか

エルカ

いた、主人公

ナイト

ほう、派手な男だな

……?

何奴ですか、貴方は?

ナイト

おっと


 

ナイト

オレはナイト。ただの通りすがりだ

……

 
不審なものを見る目で少年はナイトを見ていた。
 
ナイトはヘラヘラと笑みを浮かべている。

エルカ

貴方に聞きたいことがあるのだけど……そうだ、ソルは?

あいつは知りませんよ。僕はコレットに言われてエルカのところに向かっただけなので

エルカ

側にいたはずだけど

僕は知らないです

エルカ

……っ

ナイト

女の子に怒鳴るのは紳士としてどうかと思うが

エルカ

大丈夫、慣れてるから……

あ……ごめんなさい

エルカ

…………知らないなんて言われても納得できない。ここに来るまでの事、教えて!!

……っ

僕の本を見つけてくれたことが、それが嬉しくて僕は……急いでここに来ました。
無我夢中で、周囲を確認せずに来てしまいました。ですが、あの館にはコレットも残っているので………

エルカ

それならソルは大丈夫だよね

……そうですね……コレットが一緒のはずですから

エルカ

じゃあ、今はソルのことは考えない。ソルだって子供じゃないんだから

それが賢明です。

エルカ

それでね。教えて貰ったの

何をですか?

エルカ

この物語を結末に導かないと、私は本の外には出られないって

……

エルカ

………

そう………らしいですね

一瞬、彼が目を反らしたのを私は見逃さなかった。

第2章 物語りのハジマリ2

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