第2章
物語りのハジマリ
貴方は「何」なの?
「何」だと思う?
質問に質問で返すのは失礼
…………その通りだな
ナイトはそう微笑んでから空を見上げる。
改めて名乗るけど、オレの名前はナイト。騎士のように誰かを護れるようにって意味をもって名付けられたそうだ。
そして、今は探し物をするために、この世界にお邪魔しているところさ
探し物?
そうさ……ところで、君の名前は?
私はエルカよ
名前、教えてくれるんだな。オレが何者かも確信してないのに
貴方が名乗ったのだから、私も名乗っただけ……それに「何者」か分からないのは私も同じ。私は、私自身が「何者」かを把握していない。
私だって、得体のしれない何者かなのだ。
君は君で、オレはオレ。
それで十分だろ?
うん、そうだね
その言葉に安心する。
ナイトと一緒にいると、誰かが側にいると、さっきまでの不安が嘘みたいに消えていた。
さっきの話だけど物語の主人公を探す………ってどういうことなの?
本当に何も知らないんだな
うん?
いくつか質問しても良いかい? 図書棺にあった「本」についてだ
え?
そこに、かけられている魔法がどんなものかを、知っているかい?
……
一度開いたら最後まで読まなければならない。つまらないからと言って、それまで読んでいた本を放棄することは不可能。
どういうこと? 図書棺の中でも私は本を読んでいた。でも特に違和感はなかったけれど
君は一気に読み切っていたんだろうな
確かに
試しに読んだ本も面白かったので最後まで読んでいた。
読み始めると止まらなくて、最後まで読み切ってしまったのだ。
そういう性分なのだ。
えーっと………説明、お願いできるかな
例えば「A」という本を読み始めたら最後の文章を読み終えるまでは、「A」以外の本を開くことが出来ないんだ
そうなると、どうなるの?
途中で「B」の本が読みたくても無理なんだ。「B」を開いても、それは「A」の本になってしまう。
中身だけが変わるの?
本そのものが入れ替わるんだ。
魔法によってね……魔法の図書棺の本は魔法で出来ているから
本を持ち運ばなくても、適当に取った本を開けば続きを読めるのは有難いね
まぁ……そうだな。つまらない本とかってないのか?
虫の本は嫌い。興味のない本はそもそも開かないよ
そうだったな……
あ………そうしたら、何も食べられないってこと?
料理の本を開いても、読みかけの本になってしまったら………
読みかけの本があったとしても、料理の本は例外で読めるんだよ
都合が良いのね……
そっちは大したことじゃない。問題は、こっちだな……
………
ふいに、空気が変わった。
ナイトの表情がスッと真剣なものに変わる。
本の「持ち主」が本を開いた場合……
「持ち主」は本の中に取り込まれてしまう……そういう魔法もかけられているらしい
え?
「持ち主」っていうのは、空想の物語の場合はそれを想像した人物。
過去の物語であれば、その過去の持ち主のことだ
……………
本の世界に取り込まれた「持ち主」は物語を最後まで見届けなければならない
…………
それが空想した物語であっても、現実に起きた物語でも、結末を見届けるまでは、世界から抜け出せない
君は突然、ここに来たのだろ?
本を開いたら、ここにいたの
つまり、君は本の「持ち主」ってことだ。ここは君の世界だよ
……
おそらく、ここは空想の世界。君のいた世界にこんなものはなかっただろ?
喋る花とか
やァ コンニチハ
ボクは、お花だよー
………そうだね
……
……ってことは……
ここは君が空想した世界だろうね
その言葉の意味を考える。
思わずこめかみに手を当ててしゃがみ込む。
そんな、まさか……こんなメルヘン王国を、私が………
あーー………君が幼い頃に描いたものかもしれないよ。
子どもの空想なんてこんな世界だと思うぞ
ナイトの声が優しかったから、落ち着きを保つことが出来た。