第2章 

物語りのハジマリ

エルカ

貴方は「何」なの?

ナイト

「何」だと思う?

エルカ

質問に質問で返すのは失礼

ナイト

…………その通りだな

ナイトはそう微笑んでから空を見上げる。

ナイト

改めて名乗るけど、オレの名前はナイト。騎士のように誰かを護れるようにって意味をもって名付けられたそうだ。

ナイト

そして、今は探し物をするために、この世界にお邪魔しているところさ

エルカ

探し物?

ナイト

そうさ……ところで、君の名前は?

エルカ

私はエルカよ

ナイト

名前、教えてくれるんだな。オレが何者かも確信してないのに

エルカ

貴方が名乗ったのだから、私も名乗っただけ……それに「何者」か分からないのは私も同じ。私は、私自身が「何者」かを把握していない。

私だって、得体のしれない何者かなのだ。

ナイト

君は君で、オレはオレ。
それで十分だろ?

エルカ

うん、そうだね

その言葉に安心する。

ナイトと一緒にいると、誰かが側にいると、さっきまでの不安が嘘みたいに消えていた。

エルカ

さっきの話だけど物語の主人公を探す………ってどういうことなの?

ナイト

本当に何も知らないんだな

エルカ

うん?

ナイト

いくつか質問しても良いかい? 図書棺にあった「本」についてだ

エルカ

え?

ナイト

そこに、かけられている魔法がどんなものかを、知っているかい?

エルカ

……

ナイト

一度開いたら最後まで読まなければならない。つまらないからと言って、それまで読んでいた本を放棄することは不可能。

エルカ

どういうこと? 図書棺の中でも私は本を読んでいた。でも特に違和感はなかったけれど

ナイト

君は一気に読み切っていたんだろうな

エルカ

 確かに

試しに読んだ本も面白かったので最後まで読んでいた。




読み始めると止まらなくて、最後まで読み切ってしまったのだ。

そういう性分なのだ。

エルカ

えーっと………説明、お願いできるかな

ナイト

例えば「A」という本を読み始めたら最後の文章を読み終えるまでは、「A」以外の本を開くことが出来ないんだ

エルカ

そうなると、どうなるの?

ナイト

途中で「B」の本が読みたくても無理なんだ。「B」を開いても、それは「A」の本になってしまう。

エルカ

中身だけが変わるの?

ナイト

本そのものが入れ替わるんだ。
魔法によってね……魔法の図書棺の本は魔法で出来ているから

エルカ

本を持ち運ばなくても、適当に取った本を開けば続きを読めるのは有難いね

ナイト

まぁ……そうだな。つまらない本とかってないのか?

エルカ

虫の本は嫌い。興味のない本はそもそも開かないよ

ナイト

そうだったな……

エルカ

あ………そうしたら、何も食べられないってこと?
料理の本を開いても、読みかけの本になってしまったら………

ナイト

読みかけの本があったとしても、料理の本は例外で読めるんだよ

エルカ

都合が良いのね……

ナイト

そっちは大したことじゃない。問題は、こっちだな……

エルカ

………

ふいに、空気が変わった。

ナイトの表情がスッと真剣なものに変わる。

ナイト

本の「持ち主」が本を開いた場合……

ナイト

「持ち主」は本の中に取り込まれてしまう……そういう魔法もかけられているらしい

エルカ

え?

ナイト

「持ち主」っていうのは、空想の物語の場合はそれを想像した人物。
過去の物語であれば、その過去の持ち主のことだ

エルカ

……………

ナイト

本の世界に取り込まれた「持ち主」は物語を最後まで見届けなければならない

エルカ

…………

ナイト

それが空想した物語であっても、現実に起きた物語でも、結末を見届けるまでは、世界から抜け出せない

ナイト

君は突然、ここに来たのだろ?

エルカ

本を開いたら、ここにいたの

ナイト

つまり、君は本の「持ち主」ってことだ。ここは君の世界だよ

エルカ

……

ナイト

おそらく、ここは空想の世界。君のいた世界にこんなものはなかっただろ?
喋る花とか

やァ コンニチハ

ボクは、お花だよー

エルカ

………そうだね

エルカ

……

エルカ

……ってことは……

ナイト

ここは君が空想した世界だろうね

その言葉の意味を考える。
思わずこめかみに手を当ててしゃがみ込む。

エルカ

そんな、まさか……こんなメルヘン王国を、私が………

ナイト

あーー………君が幼い頃に描いたものかもしれないよ。
子どもの空想なんてこんな世界だと思うぞ

ナイトの声が優しかったから、落ち着きを保つことが出来た。

第2章 物語りのハジマリ1

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