コレット

好きな本を読ませてあげるわ。
だから彼の本を探すのを手伝ってね

 ニコリとしたコレットの有無を言わせない表情に、私は息を飲む。

エルカ

……うん

コレット

それと、帰れないのはエルカだけじゃないの。それを忘れないで

コレットの言葉を聞いてから、隣に立つソルを見やる。

その横顔が、呆れた表情を彩った。

エルカ

あ……

ソル

………忘れていたな

エルカ

うん、ごめんなさい

ソル

ま、このままでも構わないけどな

エルカ

それはダメ。ここはソルには退屈な場所だものね。本を探そう。

ソル

………

コレット

まずは、図書棺の案内ね。頼んだわよ

しんみりとした空気を立て直すかのように、コレットがパンパンと手を叩く。





それと同時に少年が背筋を伸ばして立ち上がると、

はい!!

とても良い返事をした。

どうやら、この少年はコレットに逆らえないらしい。引きつった笑顔で何度も頷く。









少年を先頭に私たちは棺内を歩き始めた。
 



最初に訪れたのは食堂。

壁一面は本棚になっていた。

エルカ

これ全部、料理の本なの?

はい

ソル

読めない字もあるな

それは、異国の料理本になります

エルカ

異国の本もあるの?

はい

ソル

本があっても材料も調理場もない……よな?
それなのに料理なんて出来ないだろ

料理はしませんよ。ここは魔法の図書棺ですからね

少年が適当に料理本を開くと、そこには……

エルカ

ドーナツの写真?

このドーナツが食べたい!!

って願ってください

突然、何を言い出すのだろう。

私とソルが訝しげな視線を向けると、少年の真面目な視線が返って来た。

エルカ

………わかった

ソル

ああ

エルカ

 ドーナツが食べたい

目を開けても良いですよ

エルカ

うん

エルカ

え……

これは魔法ですよ。本を開いて、「これが食べたいなぁ」って願うとその料理が目の前に現れるのです。食べてみてください

エルカ

………

エルカ

………

おそる、おそる、口に入れる。

ほのかな甘い香り、柔らかな触感、優しい甘さが口 いっぱいに広がる。

エルカ

ドーナツだ

ソル

ドーナツだな

ごちそうさまでした

ソル

お?

エルカ

皿が消えた

 食べ終わると、皿が勝手に消えてしまうので皿洗いの心配もいらなかった。

次に訪れたのは寝室。

ここの壁にも本棚が設置されている。

本に囲まれるように、大きなソファーベッドが置かれていた。
 
ソファーの感触を確認する。

フワフワのソファーは座り心地がとても良い。
どうやら、ここは本を読みながら寝る為の寝室らしい。

エルカ

本に囲まれて寝るなんて、なんて幸せなことだろう

エルカは変な子ですね

エルカ

わからないの? インクの匂いって気持ち良いのに

いったい、どんな生活していたのですか?

エルカ

……どうだったかな

ソル

……

私は地下書庫に引き篭もっていた。
 
インクの匂いと埃とカビ臭いあの地下で一日の殆どを過ごしていた。

すみません……

エルカ

気にしないで、自分が変な子って自覚はあるもの。

ソル

………

ソルが何かを言いたそうにこちらを見る。

だけど、目と目が合った瞬間に思い切り反らされてしまった。

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