それは、
突然の出来事だった………

エルカ

……何、この扉は……私、知らない

エルカ

ここは、どこだろう……
ダメ、わからない。
じゃあ、私の名前は何だっけ

エルカ

私はエルカ・フラン
14歳だよね

エルカ

学校に行くのは嫌だから、ここに引き篭もっていた

そうだ、お爺様の地下書庫に引き篭もって本を読んでいて……そして、どうしたんだろう。

エルカ

名前は憶えていたから、記憶が全くないわけではないみたいね

暗闇に目が慣れてきた。

ここはお爺様の地下書庫だ。

だけど、何かが違う。
それは目の前の扉が見たことのないものだから。

エルカ

……

どうして、これの目の前に居るのだろう。


直前の記憶だけスッポリと抜けたような感覚がある。

 ご
ゴめ
メん
ンな
ナさ
サい
イ 

エルカ

……痛い……

最後の記憶を思い出そうとすると激しい頭痛が襲い掛かる。


 

私は無意識に扉に手をかけていた。
開けなければいけない。
根拠はないがそんな気がしたのだ。

エルカ

開けなければ……行かなければ

静かに押せば、扉が開くだろう。
その時だった。

エルカ

……っ??



背中にドスンとした音が響いた。
反射的に振り返ると、そこには見覚えのない暖炉があった。もう何十年も使われていないそれが暖炉だと気づいたのは今、この瞬間だったのかもしれない。

砂埃と綿埃が立ち上がって視界を覆う。

その煙の向こうに人影があった。





激しく、その人物が咳き込んだ。

ゲホ、ゲホ
なんだ、これ、

エルカ

え………ソル?

ソル

……っ

居るはずのない人物だった。

ソル………私の兄だった。

正確には10年前に義母に連れられてやってきた義兄。

本なんて興味のないはずの人がどうして書庫にいるのだろう。




いや、それより……

エルカ

どうして、降って来たの?

ソル

え………エルカ?

ソルは驚いたように目を瞬かせる。全身埃だらけで、何だか不憫すぎる。

ソル

気付いたら落ちたんだ

エルカ

え?
どういうこと?

ソル

オレが知るかよ

エルカ

……っ

ソル

……っ

大声と共に視線を反らされる。

これ以上の追及は出来なかった。よくよく考えれば私も直前の記憶がないのだから。

エルカ

……ごめんなさい。私も、どうしてここにいるのか、わからなくて……

ソル

地下書庫はいつもいるだろ

 ソルはドンっと壁を叩く。

 天井から土埃が ドサッ と降り落ちる。

エルカ

………っ

ソル

お前には何もしないから、普通に話せって……怯えられると……困る

エルカ

……今のは怖いよ

ソル

あ、そうだよな……ごめん。少し、イライラしてた。それで、ここは地下書庫だろ?

エルカ

うん。
だけど、これを見るのは初めてなの

 私とソルは目の前の扉を見上げる。

ソル

よし、開けるか………ん?

扉のノブに触れたソルの表情が曇る。
力を入れて回そうとするが動かない。

エルカ

もしかして、鍵閉まっているの?

ソル

みたいだな

エルカ

そう、残念だわ

私はとりあえず目につく本を手に取って読書をしようと、周囲を見渡して気づく。

エルカ

あれ?

ソル

どうした?

首を傾げる私の顔をソルが覗き込んだ。

エルカ

ここ、本がないよ。書庫なのに

ソル

…………本当だ。雰囲気は地下書庫と変わらないけど本がない

エルカ

仕方ないわ。場所を移動して本を探す

ソル

……

私が立ち上がって歩き出そうとすると、ふいに腕を掴まれた。

エルカ

……

突然のことだったので、驚いて彼を見上げる。
ソルも自分の行動が意外だったのか、見開いた目を少しだけ反らす。

ソル

いつもと違うんだろ? やみくもに歩くのは危険だ

エルカ

そうだけど。お爺様の書庫なら、危険はないはずよ

ソル

じゃあ、歩き回る前に、この鍵……試してみないか

そう言って、ソルは首に下げていたペンダントを取り出す。それはペンダントではなかった。シルバーのチェーンにつけられていたのは、鍵だった。

エルカ

鍵?

ソル

ああ、お前の爺さんから御守り代わりに貰ったんだ。

エルカ

お爺様が?

ソル

御守りっていうから、持っていてやったんだが……使えないかな?

エルカ

それじゃあ試してみよう

ソル

ああ

ソルは鍵を鍵穴に差し込む。

綺麗にはまる。そして、それを回すと、


 
カチッ



とした音がどこからか聞こえた。

目の前の扉からだろう。
私とソルは視線だけ交わして、頷き合う。
 
ドアノブに手をかけて、静かに回す。

エルカ

開いた

ギギギ という音を立てて、扉が開かれた。
そして、その先で待っていたのは…………

エルカ

!!

そこで出迎えてくれたのは巨大な本棚だった。
その本の量に思わず圧倒されてしまった。

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