出し抜けに大声を上げた八葉に、留奈が目を白黒させて言った。

自分で言って自分で拍手する八葉。

まるで露店で見かけるサルのおもちゃがシンバルを叩くみたいだ。

さすがのミユも意表をつかれたようだった。

すでに７回もやっていれば、どこかで見かけてそうなものだけど。

とりあえず八葉が元気そうでよかった。

八葉主催――かっこいい人選手権。

それは、八葉が事務所内のアイドルたちのかっこよさを一方的に指摘して悦に入るだけの、ほぼ趣味である。

主に脳内で繰り広げられてきたらしい選手権だが、その殻を打ち破り、ついに現実に舞台を移したのだ。

引っ込み思案の八葉がせっかく言い出したことなので、アイドルのみんなも協力することにした。

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意外な選出だったらしく、楓はきょとんとした顔で尋ねる。

この二人は、よく他の事務所の人からも歳の上下が逆だと思われる。

でもこの関係性が二人にとっても心地よいようなので、何の問題もない。

名前を呼ばれたミユは頭をかきながら一歩前へ出た。

第３位はミユ。ナチュライク！　を率いる歌姫として納得の選出だろう。

ミユは首を傾げる。

確かに逆説的だけど、言いたいことはなんとなくわかる。

ミユは普段のんびりしているけど、決める時は決める子だ。何事にも動じないし、人の悩みを受け入れる懐の広さがある。

つまり八葉が言う大きさとは、器の大きさだろう。

違った。もっとわかりやすい方だった。

展開早いな……。

留奈は髪を手でさらりと流し、まんざらでもない顔だ。

しかし、見ているみんなは一様にうんうんうなずいている。全会一致の意見らしい。

確かに、普段は気取っておきながら、泥臭い努力ができるのが留奈のかっこいいところだ。

ついに栄えある１位の発表。

その場の全員がごくりと唾を飲み、八葉の発表を待つ。

事務所のソファに座ってレッスン着を畳んでいた七瀬さんが、驚いて顔を上げた。

徳前七瀬さん。

かつては自身もアイドルをしていて、今は事務所のダンスコーチとして後進を育てている。

ボーイッシュな見た目と声。しゃべり方もサバサバしていて、お酒も強い。そして酸いも甘いも知った大人だ。

確かに、八葉から見れば、文句なしにかっこいいだろう。

八葉は目をキラキラさせている。まるで恋する乙女のようだ。

七瀬さんは、まるで自分の子どもにでもするように、八葉の頭をなでる。

子犬のように喜ぶ八葉。

その一方で。

意外そうな顔を隠せないのは唯だった。

それは僕も同じで、だから八葉に聞いてみた。

てっきり唯が１位だと思っていた。八葉は唯のかっこよさに憧れていて、普段から師匠と呼ぶくらいだ。

それは他のアイドルたちや唯自身も思っていたはず。

そう言ったけど、唯の顔は少しだけさみしそうに見えた。

別に唯だって１位になるのが当然とは思っていないだろうけど、呼ばれなかったことに戸惑いはあるようだ。

すると八葉がぶるぶると首を振って言った。

八葉は目をらんらんとさせながら。

そういうことか。確かにこれは第８回だと言っていた。唯は過去７回すべてに優勝したから殿堂入りして対象から外れたんだ。

少しほっとしたように、微笑む唯。

八葉はどこからか、金色の額縁を取り出した。そこには、街を颯爽と歩く唯の写真が収められている。

顔を真っ赤にした唯が、八葉から写真と額を取り上げようと追いかける。

しかし八葉の脚力にかなう相手はこの事務所にはいない。