息を大きく吐いて、周囲の薔薇を見回す。
薔薇の棘に注意しながら確認。
これで、全部か
息を大きく吐いて、周囲の薔薇を見回す。
薔薇の棘に注意しながら確認。
大丈夫みたいだよ
鎌の先を使って同じように確認していたラシェルの明るい声が答えた。
あとは………
コツコツとした足音に振り返る。
シュバルツとヴァイスの姿が目に入った。
シュバルツ、お前たちはどうだ?
完璧だ
シュバルツはドヤ顔で答えた。
作業中に見た時には、かなり憑かれていたように思えた。
今はスッキリした表情を浮かべている。
きっと、憑きものが落ちたのだろう。
当然です
穏やかな顔でヴァイスが言う。
こっちは少しだけ大人しくなった気がする。
シュバルツ、何だか元気だね
そうか? ラシェルはいつも元気だな
ラシェルとシュバルツが笑い合う。
じゃれ合う二人を見ながら、ヴァイスが何となく呟いた。
僕は、彼の罪を見誤っていたみたいで……とんだ勘違いをしていたみたいです
そりゃ、自分以外の罪なんて傍目からは分からないさ
ですよね……デュークさんは、憑かれていますね
オレは罪に憑かれる以外ないからな……さて、メルのところに戻るか
オレたちを囲む薔薇園が、ぐにゃり、と歪んだ。
お疲れ様でした
にこやかなメルの笑顔が現れた。
どうやら元の部屋に戻ったらしい。
それでは報酬です。さぁ、どうぞ
メルは水晶玉をそれぞれの掌にのせていく。
ラシェルは手に入れたばかりの水晶玉をランプの光に透かしていた。
キラキラだぁ
目を輝かせてから、オレを振り返る。
これで、四個目だね
そうだな
私の御守りを合わせると五個だね
良いのか? 気に入っているのだろ
キラキラは綺麗だけど、デュークの蝋細工の方が好きだもん
そう言って笑う。
不意打ちに、こんな場所で自分の作品を褒められるとは思わなかった。
そんなこと……初耳だぞ
だから、あと二つ頑張ろう! デューク
ラシェルはもう一度、水晶玉をランプの光に照らした。
目を輝かせて、チラリとオレを見上げて満面の笑みを浮かべる。
オレは笑みを返そうとして、出来なかった。
ヒトゴロシ
ヒトゴロシ
あの畑でもない、
あの薔薇園でもないのに、
あの声が頭に響く。
……そうだな
…………………大丈夫? 変な声聞こえるの?
ラシェルに心配をかけさせまいと思っていた。
だけど、思っている以上に不調は顔に出ていたらしい。これではラシェルでも簡単に感づいていてしまう。
これはオレが背負わなければならない
本当に、大丈夫なの?
大丈夫ですよ
答えたのはヴァイスだった。
そうだな、もうこんな奉仕活動する必要ないさ
…………
二人の言っていることが理解できない。
頭が良いのに、わからないのですか? 僕とシュバルツのものを合わせたら七個です
………
振り向くと、二人は穏やかな微笑を浮かべて、
受け取ったばかりの水晶玉を差し出してくる。
でも……これは、お前たちのものだろ
水臭いですよ、目的は同じですから
この館の外に出る。その望みは同じだ。合わせても良いだろ?
シュバルツは視線でメルに確認。
問題ないですよ。
扉を開くのに必要なのが七個ってだけです。
理想的だったのは、
【七人が地下で出会い、時に争い、時に友好を深めながら水晶玉を手に入れる。そして、それぞれの手で扉にはめ込む】
……って流れだったのですけどね
何、その気が遠くなるファンタジー
オレたちだって、これから五個集めるのはしんどい。受け取ってくれ。そして、一緒に外に出ようぜ
………だが
誰かの手を借りるなんて。
そんなことは、
そんな卑怯なことは……
素直に受け取りなさい
アーク……
いつの間に現れたのかアークが鋭い目で睨みつけてくる。
受け取りなさい
アークの出現は唐突だった。
だから、その場の全員が息をのむ。
これ以上続ければ、罪に憑かれて命を落としますよ。だけど、生き延びなければならないのでしょう?
………
ラシェルを見る。
今は彼女を外に出してやることが第一だった。
その為なら、何をしてでも生き延びなければならない。
………水晶玉をいただこう
おう
二人は、本当に外に出たいのだな
もちろん
僕はシュバルツについていくだけです
デューク………フラフラしているから心配。私が持つよ
それは、ダメだ
それは、ダメです
それは、ダメだ
それは、ダメです
むぅ……
本人としては最高の申し出をしたつもりだったのだろうが、
男四人に却下されてしまった。
ふてくされるラシェルだが、突然、周囲をキョロキョロと見て。
部屋の中を走り回る。
……
どうしたんだ?
奇抜な行動を始めたので少しだけ心配になってしまった。
言いすぎてしまっただろうか。
オレの声に立ち止まり、振り返る。
あのギルドの人は?
いつの間にかメルの姿が消えていた。