気がつくと
頭上で巨大な歯車が回っていた。
時計塔。
過去を見せると言った紫季に
連れられて来た場所だ。
しかし
先程会った彼女はそれを否定し
扉を開けるための鍵も
持ってはいなかった。
その場所に
誰かが佇んでいる。
身の丈から一瞬、級友を思った。
だが彼は、
紫季の言葉が真実なら
この世界に森園灯里は存在しない。
髪は闇を含んだような漆黒。
紫紺の振袖は
肩と裾の部分に金糸で蝶の刺繍が
施されている豪華なものだ。
この着物だけで
彼女の家の栄華が見て取れる。
……灯里、じゃないよな
いくらなんでも
女装の趣味は無かったはずだ。
呼びかけた声に
彼か彼女かわからない誰かは
ゆっくりと振り返った。