それでいいはずがない。
そんなことは、おかしい。



だが、
 だったらどうしたらいい。

過去に手出しをすることはできません




 もし木下女史を助けたことが
原因なのだとしたら

助けなければよかったとでも
言うのだろうか。


変わるって言ったって、木下さんが助かるだけじゃないか





直接的にはなにも関係ないようでいて
巡り巡って
灯里が消えたのだとしたら。


そうでしょうか















紫季

はい

俺をもう一度、六日の夜に戻してくれ







ここは俺のいた世界じゃない。

『過去を見る』ために
来た世界。

俺はここで犯人の姿を見た。
身長も、利き手も、服装も
頭の中に残っている。





その記憶だけを連れて
俺は元の世界に戻る。
戻って、犯人を捕まえる。

あの世界に
木下女史はいないけれど。







そういう筋書きだったはず。


































紫季は無表情のまま晴紘を見上げた。

なにを世迷いごとを仰っているのやら。
魔法使いでもなければ時間を巻き戻すことなどできません

!?


違う。


その魔法使いでもなければできないことを
やって見せたのは、
まぎれも無く目の前の彼女だ。

時計塔だよ! 過去を見せるって、でも手出しはするなって、そう言っただろ!?









ここは
俺のいた世界じゃない。






ここは

紫季に連れて来られた
別の「十一月六日」から
続く世界。



そう……だよな?










意味をはかりかねます

紫季!


紫季は気の毒そうな顔を向けただけで、
廊下の先へ去ろうとする。

そんな彼女に晴紘は追いすがった。

頼む、紫季。首からかけてる鍵があるだろう?
それでもう一度、

ございません


紫季は晴紘の手を取ると、
そのまま自分の胸に押し付けた。

レースやフリル越しではあるが、
その下に
金属の鍵が隠されている感触は無い。

お気が済みましたら着替えて来て下さいまし。夕食はとうに出来てございます


























戻れ、ない……のか?


晴紘は玄関先に立ち尽くした。








【参ノ壱】平行世界・肆

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