ふと、思い出した。
自分のいた世界では過ぎてしまった
十一月六日のことを。
紫季が過去を見せると言った後に
いたその世界。
過ぎたはずの「十一月六日」。
あの日、駅裏に行って
木下女史と
彼女に立ち塞がる誰かを見て
それから
どうしただろう。
元の世界に戻って来ただろうか。
あのまま
あの世界に居続けているのでは
ないのだろうか。
早くお入りください。一家の長を玄関先に立たせておくわけにはまいりません
長……?
違う。
この世界は違う。
この家は自分の級友であった
森園灯里の家。
自分は居候であって
この家の長などではない。
紫季、灯里は
あかり、様? どなたでいらっしゃいますか?
!
まさか。
まさか
俺が木下女史を助けたから?
だから
未来が変わってしまったのか?
……紫季、
晴紘は
少女の細い肩を両手で掴んだ。
手が震えているのがわかる。
灯里が消えた。
この家にはそのまま住むことができる。
運のいいことに
料理と家事全般を任せられる者もいる。
灯里とは親しい間柄ではなかった。
偶然、同居するようになって
打ち解けてきたから
話すようになっただけで。
いなくなっても
特に困りはしない。
木下女史だって
生きているかもしれない。
犯人も捕まっているかもしれない。
それこそ
願ったり叶ったりじゃないか。