部活が終わって携帯を確認すると、絢香から連絡が来ていた。
オレは珍しいなって思って、内容を確認するとため息をついて携帯をポケットにしまった。
オレのやさしい友達は、今日も今日とていじめを受けているみたいだった。
部活が終わって携帯を確認すると、絢香から連絡が来ていた。
オレは珍しいなって思って、内容を確認するとため息をついて携帯をポケットにしまった。
オレのやさしい友達は、今日も今日とていじめを受けているみたいだった。
あやかー、オレオレ
呼び出された特別棟のトイレに行くと、しっかりと鍵が閉まっているトイレを発見した。
女子トイレに堂々と入れるのものここが特別棟だからだよねー、なんて思っていると、中から声が聞こえた。
近くに誰もいない?
いないいない
よかった。
やっと出られる
何があったのさ
ちょっとね
言いよどむ絢香に首をかしげながらも、トイレから出てくるように促す。
早く出てきなよ
うーん、あのね。
匠を呼んだのはね、ちょっといろいろあってね
うん。
なぁに?
このトイレ、ドアが開かないの
閉じ込められちゃったの?!
誰に?!
悠美軍団!?
いや、自分で
は?
絢香の話をまとめるとこうだった。
放課後男子に追いかけられ(全員1学年というだけで接点はないらしい)、殴られて堪るかと女子トイレに避難したところ、特別棟だからオレみたいにずかずか男子が入ってきた。
慌てて、この個室に入ってカギを閉めたところ、あまりにも強くドアを閉めたせいか、立て付けが悪くなり、ここに閉じ込められているうちに、男どもも消えていた。
というわけだった。
で?
カギは壊れてないの?
カギはね、さっきから開いてるの。
開いてるはずなのに、開かないの
なんで絢香はちょいちょい馬鹿なのー?
だって、まさか出られないとか思わなくない!?
男どもは蹴ったりなんたりしなかったの?
した結果壊れた可能性も否定できない
二人の間に微妙な空気が流れた。
オレ一人じゃ無理だよ
だよね
誰か呼ぶよ?
……ち、千裕は、その
めんどくさいなぁ。
じゃあ、拓也呼ぶ
面目ない
そのあと、学校で居残り勉強していた拓也がすぐに来てくれて、オレたちは一緒に帰ることにした。
帰り道にまた襲われたら、もう自制が気かない気がするし絢香を送っていくことにした。
それに、ちょっとオレは聞きたいことがあった。
いやー、ほんとに助かったわ。
ありがとう
別にいいよ。
オレ、部活終わりだったし
勉強も区切りよかったし
で、オレ聞きたいことあるんだけど
拓也に目くばせすれば、いいんじゃないと笑われる。
結局さ、絢香は誰が好きなの?
……ワタシ、ニホンゴ、ワカリマセーン
全部日本語だよ
……ソ、ソウデスネ
絢香の家までの帰り道をゆっくりと歩く。
いつもの踏切は随分昔に通り過ぎていた。
坂道を少し上がったところで、それまで変な人のモノマネをしていた絢香が観念したように、正気に戻った。
そんなの、私が知りたいわよ
え?
あのね、私は今まで泰明しか見てこなかったのよ
うん。
それは知ってる
共通認識。
泰明意外の僕らの
……なんかそれも結構嫌だけど。
まぁ、それでね。
私は泰明しか目に入ってなかったの。
千裕がどんな気持ちでいたのか、なんて、その、うっすら気が付いていたけど、なんていうか、き、気に留めて、な、か、った、のよね
罰が悪そうに言う絢香に、その言葉を千裕にぶつけてやったらきっと千裕は固まるだろうなと、片思いを継続している彼に不思議な罪悪感が募る。
オレさー、絢香は、絶対気が付いてないと思ってたー
き、気が付いてるとか言うレベルじゃないのよ?
その、なんか、いっつもあたしが辛い時にそばにいてくれるなって。
……泰明がいないときに
拓也が遠くを見つめ始めた。
うん。オレも遠くを見つめたい。
千裕、ほんとにかわいそう。
その、あんたたち、部活一緒じゃない?
だからその、自然と、ああ、千裕かっこいいなぁとは思うけど……
お、思ってたんだ!?
思うんだけど。
……泰明には負けるなって
……。
もう、やめてあげなよ。
千裕の悪口は
見かねて止めに入る拓也。
オレ、なんか心が痛くなってきた。
で、でもね!
話をたたむ流れに持っていったのに、絢香は強引に話を進めた。
顔を真っ赤にしながら。
こ、この前、保健室で、やっぱり泰明好きだって思ったけど、ち、千裕が、笑ってくれたら、すごくうれしいっていうのもあるの!
!?
あ、絢香さん、それ、やってることが泰明と一緒……
あああああ、違うの!?
なんていうの!
好きは好きなんだけど、今までそんな対象で見たことなかったから、本当に好きかはわからないっていうか、なんの好きかわからないっていうか、ど、どう伝えたらいいのかな!?
絢香!
なによ!
それって、千裕を意識し始めたってこと!?
……や、やだ
は?
千裕を好きな私とか、ヤダ
なんで
そんなの、千裕を利用してるだけじゃん
正直、俺はそれでもいいと思う。
帰る足が止まってしまった絢香は慎重に言葉を探している雰囲気だった。
どうやら、真剣に千裕のことを考えているようだ。
うん、いい傾向だ。
オレ的には、今の状況で泰明に固執するのはバカバカしいっていうか、あれだよね、別に男なんて星の数ほどいるんだから、一回離れてみてもいいって思うんだよ。
なんていうか、泰明のことはたぶん、まだ大好きなんだと思う。
私は……ほんとに泰明意外の人を見てこなかったから、何とも言えないけど、きっと一生好きなんだろうなって思っていたわけよ。
でも、千裕のやさしさとか、そういう気持ちが見えてきた結果、とってもいい人だって思ったわけ。
……そう、とってもいい人
とっても、いい人かぁ
うん。
だから、一回ちゃんと、考えてみようと思った結果、とっても恥ずかしくなって、今は二人っきりとか無理。
恥ずかしい
ここで、絢香を挟んで向こう側の拓也が首をかしげた。
とっても、いい人なの?
うん
そうか。
かわいそうな奴
たぶん、拓也が誰にも聞こえないように言った言葉はオレが思ったことだったような気がする。
これ以上、なんか下手に口出しするとこじれそうな気がしたので、さっさと絢香を家まで送って帰った。
夕暮れの赤い空を見上げながら、友達の恋の行方が本気でかわいそうになったのはここだけの話だ。