いじめられっ子チームといじめっ子チームは、否が応でも互いを観察している。

なぜならば、いじめっ子はいじめられっ子がダメージを受けているのが見たいし、いじめられっ子は被害を最小限にすべく、いじめっ子を観察しなければならない。

という、ある意味矛盾にも似た現象の中、それは起こった。

うっせーんだよ!

紫穂

ちょっと、翠、あんまりおっきな声ださないでよ

これが黙ってられるかてーの

2限目の休み時間、悠美のグループで何やら問題が発生したようだ。

ご、ごめんなさい

紫穂

碧も、すぐに謝んないの

紫穂ちゃんが碧ちゃんと翠ちゃんをとりなしている。
悠美はオロオロするだけで、何にも言わない。

どうしたのだろうか。
さっきまで仲良く話していたのに。

いじめの方向性の違いでグループ解散するの?

眺めていると、翠ちゃんとばっちり目があった。
そらすタイミングが遅れてしまって、にらみ合いに入りそうになると、翠ちゃんは突然こちらへ近づいてくる。

お、おお、なんだなんだ?

近づいた翠ちゃんはためらうことなく、あたしの胸ぐらを掴んで、強引に立たせた。

ムカつくんだよ!

絢香

は?何が?

お前!全然ダメージねーじゃんか

なんでヘラヘラヘラヘラ、男侍らして、ついでに先輩まで取りこんで、悠美にしたことの反省が全く見られねーじゃねーか!

絢香

だから、私は何もしてないって

じゃあ、机は誰がやったんだよ!

絢香

知らないわ

お前が付き落としたんだろ?!

絢香

記憶にないわ

悠美のこと殴ったって紫穂がいってただろ!

絢香

身に覚えがないわ

いい加減に認めろよ!悠美がかわいそうだと思わねーのか

その一言で空気の傍観していた空気が一気にマイナスへ移動した。

それは、悪意という塊だった。

あたしはため息をつく。

絢香

じゃあ、今の私はかわいそうじゃないの?

ああ?

絢香

靴箱も使えない、ロッカーも使えない。更衣室でも嫌がらせをされるから、ぎりぎりで着替えるしかない。知らない男子からもストレス発散みたいに殴られて、ネットに個人情報ばらまかれて、クラス中からシカトされて、カンニング疑惑かけられて、私はかわいそうじゃないの?

静まり返る教室。

気まずい空気がそこには流れ始めている。

小さな、でもしっかりと聞こえる声で碧ちゃんが口を開いた。

それ相応のことをぉ、したんじゃないのぉ?

碧……

ヒートアップしていた翠ちゃんが感情的に言うよりも、碧ちゃんの悲しそうな一言の方が影響力は高いよなぁ、なんて、つかまれたままの状態で冷静に分析してしまった。

この3人は3人でいると力を発揮するのか、阿吽の呼吸をみているようだ。

誰かが誰かの欠点を補いあっている。
素晴らしいチームプレイだ。

バスケとかすればいいのに。
スポーツしなよ。いじめる暇もないし、疲れるから。
そして、続く碧の演説。

悠美はぁ、なぁんにもぉ、してなかったのにぃ、突然嫌がらせをされてぇ、それでぇ、いっぱい怪我しちゃってぇ、体もだけどぉ、心もぉ、すごくすごくぅ、痛かったんじゃなないかなぁ。だからぁ、いつもだったらぁ、すぐに止めるのにぃ、頭ではわかってるのにぃ、止められないんじゃないかなぁ。悠美はぁ、きっとぉ、今もまだぁ、傷ついてるんだよぉ……

えー、その理屈で行くと、いじめられる方に問題があるんじゃん。

それ、ちょっと、世の中といわれている場所で言ってみなよ。間違ってるって言われるから。

どんな理由があろうとも、相手に気がいをくわえて時点で、その子は加害者になるんだよ。

そして、これは立派な犯罪なんだよ。
あたしがその気になれば暴行の罪に問えるんだよ。

悠美

みんなもういいよぉ。授業始まるから、席につこうぉ?

見かねたように悠美がクラスメイトに呼びかける。
散らばっていたはずの悪意を、悠美はきれいにまとめ上げた。

悲劇のヒロインとして。自分は大丈夫だから許してあげてといっている。

思春期の行き過ぎた正義感は、すぐさま悪意にまみれていった。

悠美はほんの少しだけ、首をかしげるしぐさをしたが、そのまま席についた。
それを見た翠ちゃん他クラスメイトが自分の席につく素振りを見せる。

あたしは形が崩れた制服を少しだけ直して、席についた。

三宮くん

彼女をどうするの?

潰すの

三宮くん

君に出来るの?

やらなきゃ

三宮くん

直接話すことは出来ないのかな?

何回も言うけど、あたしには無理よ

三宮くん

陰でこそこそしてるよりよっぽど効率的だと思うけど

それができるんだったら、苦労はしないって

三宮くん

でも、早く動いた方がいいよ

わかってる。1学期中に決着をつける

三宮くん

僕も手伝うよ

……ありがとぉ。でもぉ、これはぁ、あたし達の問題だからぁ

38時間目:その場しのぎ

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