世の中には、変な人、というか、その、性的趣向の強い人は一定数いるんだなぁと、あたしはぼんやりと考えていた。

帰り道、ちょっと用事があって牧と別れて本屋さんに立ち寄った。
そのせいもあって、家の近所に来た時間は結構遅くなっていた。

いや、遅くなったといっても、10時とかじゃなくて、普通にちょっと遅めの8時くらいだった。
だから、そこそこ人通りもあるし、人通りがあるんだからここで何か起きるなんて考えていなかった。

街頭しかない道に、男の人が立ってるなぁ、くらいにしか思ってなかったのに。

絢香

やめてください

変なお兄さん

えー?さみしいって書いてたじゃん

絢香

他人の空似です。いい加減にしないと警察呼びますよ?

変なお兄さん

いいけど、君も捕まるよ?

絢香

なんでですか、どう考えても嫌がる女子に変なことしようとしてる成人男性じゃないですか

変なお兄さん

君のすぐに消しちゃったページ、俺スクショしてる

絢香

なんて面倒なことを……

変なお兄さん

あー、今認めたよねぇ?

絢香

認めてねーよ

これじゃらちが明かない。

でも確かにこれ、この人がほんとに画面持ってたら説明がややこしいっていうか、信じてもらえるかどうか。

それに、この間のことでお母さんに連絡いってるから、一人暮らし解消されそうで怖い。

それはヤダ。このタイミングで学校が変わるのは嫌だ。
逃げてると思われそう。

絢香

大きな声あげますよ

変なお兄さん

だから警察が来ても、関係ないって

絢香

……

どうしようかと思っていると、携帯が震えた。

絢香

男からそんなに意識をそらさずに、携帯を見ると知らない番号からだった。

絢香

はいもしもし

変なお兄さん

えー、俺は無視かよ

絢香

は?久しぶりです。いや、ちげーよ、ふざけんなよ

変なお兄さん

誰と話してるのー、絢香ちゃーん

ぞわっとしたと思ったら肩に手が乗っていた。

いや、見えてたけど、ちょっと、名前とか呼ばないでマジ気持ちが悪い。

松崎さんから入ってよ、こわっ。
男の人こわっ!

蓮見蓮

絢香ちゃんの男運のなさってすげーな

肩に手が乗ったまま、声のする方を振り返ると、見知った顔があった。

絢香

この人をあたしの男運にカウントしないでくださいよ。道端でばったり出会ってしまっただけの変質者ですよ

蓮見蓮

変質者を寄せ付ける体質でもしてんじゃないの?

絢香

あー、変質者ってよりか、頭おかしい人が寄ってくるイメージです

変なお兄さん

き、君たちなんの話をしてるの?

男が若干おびえたのは、突然第三者が入ってきたからなのか。

変なお兄さん

彼氏さん?

 

絢香

……やだぁ、この人が彼氏とかマジやだぁ

蓮見蓮

お前さぁ、そこは彼氏ってことにして、この場を投げるとかすればいいじゃん

絢香

むり、ほんと無理。嘘でもあなたのこと彼氏とか言えない!いいたくない!

蓮見蓮

せっかく助けてやってんのに

絢香

まだ助け切ってないから。助け船が見えたくらいだから

蓮見蓮

ま、いいけどさ、おじさん。ギャラリー集まって来たからそろそろ帰りなよ

放置されていた男に、声をかける彼。

変なお兄さん

え?

蓮見蓮

このままここで話してて警察来たらおじさん分が悪いよ?

変なお兄さん

でも、写真が……

蓮見蓮

俺がこの子をかばうから証言が簡単に2対1になっちゃうし。それに、そんなもの、いくらでも加工できるからね。それに、どうせ、他でもこんなことやってんだろ。この子に手を出すのは頭悪いぜ

変なお兄さん

ちっ

蓮見蓮

じゃーねー、おじさーん

話がついたのかおじさんはかけていった。

絢香

……なんで男の人って、女相手だとあんなに強気で話してくるのに、強そうな男がきた途端、尻尾巻いて逃げるのかしら

蓮見蓮

あのおじさんから見れば、お前の価値がそれくらいって話だろ

絢香

!?

蓮見蓮

学校じゃ2位だか、170位だか知らねーけど、外部から見たらその価値しかねーんだよ

絢香

そこじゃない。あたしが驚いたのはそこじゃない

蓮見蓮

あ?

絢香

あたしの顔ってその程度だったんだって思って。泰明も、千裕も、かわいいっていってくれてたし、昔。あたし勘違いしてた。てっきり絶世の美女かと……

蓮見蓮

仮にお前が絶世の美女だったら今頃芸能界入りしてんだろ

絢香

!?

蓮見蓮

変わってねーなー

絢香

あなたこそ、変わってなさ過ぎですよ、蓮さん

話しながら家まで送ってくれた2学年1位の蓮見蓮さんは、どこからか強奪してきたお酒を鞄の中から出して、勝手に家の中に入ってきた。

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