中間テスト明けの月曜日、たくさん答案用紙が帰ってきた。

順番が出るのは金曜日になりそうだ。

と、牧ちゃん情報局では言っていた。

あたしは帰ってきた答案を眺めながら、これは総合一位も夢じゃないと一人満足していると、碧ちゃんが近づいてくる。

最近ちょっと、距離ができたけど、あんまり気にしないで近くにいてくれる千裕が、自然に横に来てくれた。

たぶん、女子相手だから千裕は見守るだけなんだろうけど、ちょっとホッとした。

何気に金曜日のことを謝るチャンス

あ、や、かちゃーん?

碧ちゃんは教室中に響き渡る声で名前を呼ぶと、携帯電話を取り出して、あたしに見せる。

これこれ。これ、絢香ちゃんだよね?

絢香

はぁ?

携帯電話をのぞき込むと、たぶん学校の更衣室で着替えている途中の写真が映し出されている。

絢香

なによ、これ

うふふ、あたし見つけちゃってぇ?びぃーくりしたぁ!こんなとこに、登録してるのぉ?

絢香

着替え中で下着姿のあたしは、あけすけな文章と、学校名、本名、電話番号、メールアドレスを書いている。

これ作った人間の労力に感激を覚える。

暇人か。

ばらされてぇ、悲しくて泣いちゃう?ふふ、泣いちゃうのぉ?

楽し気に笑う碧ちゃんを見て、碧ちゃんの後ろを見ると、翠ちゃんと紫穂ちゃんが笑っている。悠美は先生にでも呼ばれているのか、教室の中にはいなかった。

絢香

ちょっといい?

うん?

悠美がいないことを確認して、こういうこと言うのもなんだかちょっと、かわいそうだけど。あたしは金曜日に、気を引き締めてことに当たるといったから、それなりに、頑張って対抗しようと思う。

絢香

ここ、あなた利用してるの?

へ?

絢香

だって、あなたが見つけたんでしょ?

ま、まぁね

絢香

ってことは、これ見てたのよね?

……

絢香

なにもいえないの?

あ、あたしぃ

悠美

そのサイト、昔悠美が勝手に登録されてたのぉ

碧ちゃんが、言葉に詰まっていると、悠美が教室に入ってきてそう言った。

どこで話を聞いていたの悠美ちゃん。
今の今までいなかったよね。
タイミングよすぎだわ。牧の方を見ると、耳を指さされる。

え?盗聴器?碧ちゃんについてんの?
それって友情大丈夫?!

絢香

そうなの?

悠美

また悠美がそんなことされないように、碧はたまに確認してくれてるのぉ

絢香

そうなんだ

あたしがそういうと、悠美は碧ちゃんの手を引っ張って席に戻っていった。

あたしにはもう興味がなくなったのか、教室中から注がれていた視線は消えた。

隣にいた千裕が肩透かしを食らった顔をしてたけど、そのまま自分の席に戻った。

……悠美ごめん

悠美

ううん。嫌な思い出だけど、碧が変な誤解されるよりかましよぉ

ありがと

悠美

あと、わざわざ苦手なことしなくていい。頼んでない

……うん

悠美

でも、あたしのために動いてくれたことは凄いうれしい。ありがと

……うん

あたしはこの時、悠美たちに初めて言い返せた気がして、調子に乗っていた。

それに、そのページは牧がすぐに削除してくれたし、悠美もなんだかおとなしかったし。

それであたしは、個人情報が一瞬でも外に出たことを忘れていたんだ。

35時間目:見えない敵

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