案外千裕が出てきたのは早かった。

千裕

誰もいねーぞ

絢香

全部見た?

千裕

見た見た。トイレも風呂場もみた。人が入れそうなとこは全部開けた

ベッドの下は?

千裕

見たよ、都市伝説みたいなことになったら怖ーよ

警察さんは、もうすぐ来るって

絢香

私、お部屋入っていいかなぁ?

千裕

入っちゃダメだろ

絢香

じゃあ、もうここで打ち上げやろうか

……警察さん来る前にちょっとあたし入っていい?

絢香

なんで牧が入るのよ

もう二度と情報戦で負けないわ

絢香

は?

もしこれが悠美たちならどう考えても室内に何かしかけてるはず

全部あたしが見つけ出して、逆手に取ってやるんだから。あたしを二度も馬鹿にして……

マジで神崎だったら、容赦しない

あたしたちが止めるのも聞かずに牧は室内へ入っていった。

ハラハラしながら待っていると、牧は少しして満面の笑みで部屋から出てきた。
あたしたちが声をかけようと口を開けば、口元に手を持っていって、静かにするようにとジェスチャーする。

指示に従って一言も発さないでいると、牧は近くに寄ってきて手のひらにある小さな機械を見せた。

それから、ニコニコしながらバックの中からなにやら機械を取り出し、先ほどの小さな機械に何かしてた。

そう、全く詳しくないあたしには、牧がニコニコしながら機械を弄って、そして、にやにやしながら小さなケースにその小さな機械を入れた。くらいにしか見えなかった。

もうしゃべっていいよ

牧は、笑いをこらえるように言った。

四人で顔を見合わせる。

序列役員の仕事(?)なんて始めてみたから何やってたのか、全く分からない。

ふふふ、神崎め、もしもこれがお前の機械なら尻尾をつかんだも同然なのよ。

あたしのことよくも馬鹿にしてくれたわね……後悔なさい、ふっふっふっ

絢香

ま、牧のキャラが変わってるんだけど

拓也

とりあえず、僕らが思って居た以上に牧は牧なりにプライドを傷つけられてたんだね

絢香

役員てこんなことしてんだね

一体何やってたのか全然分かんなかったけど、オレ

え?特に何も

ただちょっとした嫌がらせ。あのね、これを聞いている人には、空気の音しか聞こえてないの。最初の設定を少し弄って、あ、もちろんばれないようにね、こっちの声が入らないようにしたの。で、これはあたしが持って帰ってあとで破壊する。そう、大音量で破壊してやるのよ

牧がニヤリと笑ったところで警察が来た。

とっさにさっきの機械、あとから聞いたら盗聴器だったらしい、のことを隠して、空き巣かもしれないということで処理してしまった。

その日、そんなことをしていたせいで結構遅くなった。

家がどこの誰か知らない人にばれてる上に鍵のことが心もとなくて、鍵屋さんがカギを変えに来てくれるまで待っていると、すぐに夜になった。

お昼からここにいるからちょっとすごい時間みんなと一緒にいた。

絢香ちゃん!今日お泊り会しない?

絢香

え?牧はさっきの機械いいの?

いいのいいの

絢香

目先の楽しいことに惑わされてるでしょ

うん!

ニコニコしてる牧を見てたらまぁ、それもいいな か、なんて思ってほかの人も誘う。

絢香

はぁ、みんなも泊まって……千裕以外は泊まってよし

千裕

!?

……よし、千裕は帰れな!

千裕

え?!

拓也

そうだよ、千裕は帰んなよ、別に男二人もいれば、大丈夫だよ

千裕

嘘だろ!?

あ、じゃあ、千裕君帰るなからこれ、帰りに下水道に捨ててきて、なるべく水の音がうるさそうなとこに

千裕

待てよ、俺ほんと泊まっちゃダメなの!?

絢香

……

身を乗り出した抗議する千裕をみて、牧の背中に隠れたら、さすがは女子、何かを察してくれた。

一体何を察したのか分かんなかったけど、千裕を部屋から叩きだしてくれた。

ほんと、申し訳ない。
誰にって?みんなにだ。

ご飯を食べて、適当に女子はベッド、男子は畳に横になった。
そして始まる修学旅行トーク。

この前のさ、絢香ちゃんが殴られてたやつさ、あれであたし思ったんだ

牧が真っ暗闇の中で口を開いた。

あたしたちはもっと緊張感をもって悠美ちゃんたちに対抗しなきゃって

絢香

うん

拓也

この前の匠の発言も、僕はどうかと思ってる

あれはほんとにごめんって

そういう隙が絢香ちゃんの立場を悪くしてるんじゃないかって思うの

ただでさえ、絢香ちゃんは周りにイケメンが集結してて、勉強できて、かわいくて、性格もよくて、運動もできて、先生にも気に入られてて、腹が立つでしょ?

絢香

あれ?牧ちゃん?

普通の女子が思うことよ。仕方ないじゃない。人は自分が持ってないものには憧れと嫉妬を持つものだもの

絢香

そっか

だからね、もっと気を引き締めてことに当たらなきゃいけないと思うの

絢香

うん

言い方悪いけど、そのためには、千裕君の協力が不可欠なわけ

絢香

お、あ?え?

だからね

隣に寝っ転がっていた牧が体の向きを変える。

薄暗い闇の中でも牧の大きな瞳がしっかりを私をとらえた。

お願いだから、馬鹿みたいな恋愛感情で千裕君を遠ざけるのやめてあげて

拓也

ああ、あれは見ててむごい

え?絢香って千裕のこと好きなの!?泰明のことまだ好きなんじゃないの!?

絢香

え?え?ちょ、なんで知ってんの?

筒抜けよ!気が付いてないとでも思ったの!?

拓也

保健室でなんかあったんでしょ

絢香

な、ななななないよ!

絢香どもりまくり、ウケるwww

絢香

ウケんな馬鹿匠!

千裕君は絢香ちゃんにずっと片思いしてんの!

絢香

高校からじゃないの?

拓也

小学生の時からだね

絢香

ええええ?!

たぶん、絢香と泰明が互いに意識し始める前からだね

絢香

な、なんでみんな知ってんの!?

だってバレバレだったもん

絢香

ちょ、だって、あたし告白されたとき一番最初に教えたの千裕だよ

拓也

うん、悲しそうに笑ってたよー

絢香

う、うそぉ……

ほんとなの。だからね、今更一位さんといちゃついたくらいで、千裕君を遠ざけるのはやめてあげて

絢香

……だって、そんなの利用してるみたいでヤダ

拓也

利用してあげなよ

拓也が諭すように言った。

拓也

千裕はあんな奴だけど、絢香のこと、ほんとに一番に考えてるよ。序列落ちした日、教室で絢香を支え続けたのは、千裕だったでしょ

拓也

絢香は泰明のことしか見てなかったみたいだけど、千裕はそれでも絢香の力になりたいって思ってるんだよ。絢香だって気が付いてないわけじゃないでしょ

拓也

中学女子で二位なんておかしいって。千裕が譲ってるんだって。好きになってあげてなんていわないけど、力に、なりたいと思ってる千裕を、遠ざけるのはやめてあげて

絢香

……おやすみ

布団の中に潜り込めば、三人があきれたようにため息をついた。

それでも、今のあたしはにはこの恋愛感情はどう処理していいのわからないものだった。

34時間目:衝撃の事実(2)

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