マギアフィラフト
~伏章~
ベインスニクを出た四人は、城塞都市ディープスに続く林間道を歩いていた。木々の合間から差す光は明るく温かい。多様な植物が生い茂っており、空気は澄んでいた。
ここを抜けるとレイマール王城が
右手に見えてくる。
そして更にその先は
ディープスとの国境なはずだ。
以前、医者を探しに
レイマール城下に
赴いた事があったけど、
その先の国境は越えた事はないわ。
俺は親父と一緒にだな。
実は城にも入った事もある……。
通常、一般人が入城する事は難しい。一般人には城の内側など知る由もないのだが、リュウは呑気な顔をしてサラッと口にした。
へぇ~、お城の中になんて凄いね。
やっぱりお仕事?
親父の商売の見習いでな。
別に城の中ったって
そんな驚く事はなかったぞ。
旨そうな飯が食えそうっすね。
まったくハルは
すぐに食事の話になるのね。
歩く間にする事は、景色を楽しんだりもあるが、殆どを会話に費やされる。木々に囲まれた静かな林間道は、その会話で賑やかだった。
林間道を抜けると、目の前が広がった。遠景には岩場がそびえ立ち、その上には城の一部が見える。岩壁上に築かれた自然の要害だ。
お、おおほぉ~ぅっすぅ~。
うわぁ~。凄い岩壁。
あんな所にお城があったんだ。
初めて目にするレイマール城に、ハルとメナは一葉に目を丸くした。
私も始めての時はそうなったわ。
それに二回目の今も大して
変わらないけど。
そうだな。いつ見ても
圧巻の風景だよな。
昔の戦争の時でも、
難攻不落と言われたみたいだな。
えっ?
戦争なんてあったんすか?
50年以上も前の話よ。
ディープスと周辺諸国の連合軍が
戦った大戦よ。
有名なのは、歴史的岐路と言われる
フィーリアス王の終戦宣言だよね。
フィーリアス王とは、現ディープスの王である。メナが言うのは圧倒的国力を持つディープスが、劣勢であった連合軍に対して、対等で和平協定を結んだ歴史だ。
『民を思えば戦争なぞ愚の骨頂』
即位して間もない若いフィーリアスの言葉だ。国益を越えた宣言から、現在の平和が始まったと言いきってよい。
当初は外交的戦略かと
疑われたみたいだけど
50年以上経つ現在も
平和は続いてる。
その言葉に偽りは
なかったって事だな。
一人の強い意志が戦争を終わらせ
平和の礎を築いたって事だね。
本当に偉大な王様だわ。
はへぇ~。
なんか難しい話っすね。
やっぱり歴史は苦手っす。
歴史だけが不得手のように
聞こえる言い方ね。
確かに。
小難しい話を脱線させるのはハルの役目だ。それを微笑ましく茶化しながら、ハル達は歩を進めた。
街道を進むと、二人の中年が道脇にある切り株に腰かけ話をしていた。
本当か?
そんな事があるか?
まじだって。まぁ、噂の中には
誘拐されたんじゃないかって
話も出てきてるくらいだがな。
ユフィは何食わぬ顔で聞き耳を立てていたが、リュウが単刀直入に質問し始めた。
なにかあったんですか?
物騒な内容っぽいみたいですけど。
ん?
旅の若者か?
そうっす。
旅の若者っす。
なぁに、今ちょいとした噂を
聞いたものでな。どうやら
レイマールの姫君が
居なくなっちまったみたいだぞ。
見つけ出したら
報奨金の一つや二つ
あるんじゃないか?
それはあるかもな。
わははははは。
男達は自分達の言葉を楽しく笑い飛ばした。それにしても、ただの噂話にしては物騒な内容だ。リュウは片手を軽く上げ、男達に礼と別れを示した。男達はそれを見るまでもなく、大声で笑っていた。
本当に誘拐だったら怖いわ。
しかもお姫様をだなんて。
まぁ、噂だからな。
一々信じてたら、目的果たせないぞ。
それに本当だったとしても
私達には無縁の話よ。
ところがそのお姫様が
旅の若者達と、
道端でばったりとか
ないっすかね?
レイマールに寄ってく
わけでもないし、
ユフィの言う通り
俺等には関係ないっしょ。
ハルがそんな事言うから、
なんだか皆お姫様に見えちゃうかも。
おおー!
そう言えばあの前を歩く人影が
そのお姫様に見えてきたっすよ。
いやいや、あれは遠目に見ても
ごっつい大男だぞ。
メナも流石にそれは間違えないと笑顔をこぼす。ハルは悪乗りして大きな声で、「お姫様~!」と大男に向けて呼び掛け、ユフィはそれを慌てて止めた。叱り付けるようにハルにお説教をするユフィ。ディープスまでの距離はしばらくあるが、四人に退屈はなさそうだった。
明けましておめでとうございます。
ようやくマギアフィラフト定期更新再開する事となりました。そして参加型のアンケートコメントありがとうございました。暫くは更新のみで、余裕が出てきましたら本編に影響の出ない範囲で参加型に着手するつもりです。
改めまして本年も宜しくお願い致します♪