20XX年、痴女パンデミックが起こる前のイギリス・オクスフォード大学にて。

 ふたりのスパイが対峙していた。


そこまでだ!

くそっ!?

貴様がロシアのスパイということは分かっている。今ここで人知れず死ね

その構え、貴様はMI6の諜報員だな

……どうかな?

やはり、オクスフォードが勧誘機関だというウワサは本当だったのだな

 そう言ってロシアのスパイは、彼女に飛びかかった。

 しかし乱闘の末、ロシアのスパイはその手をひねられ、地面に叩きつけられた。

 金髪の少女がロシアのスパイに馬乗りになる。

 そして彼女は拳銃を突きつけこう言うのだった。

貴様に3人殺されている。とにかく死ね

ふんっ、MI6に殺されるなんてスパイ冥利に尽きる。記念にコードネームを教えてくれないか?

残念だったな。殺しのライセンスは、まだ持っていないんだ

ダブルオーではないのか!?

アレックス。貴様を殺すのは、ただのオクスフォードの学生、見習い諜報員のアレックスだよ

 そう言ってアレックスは、スパイを撃ち殺した。

 初めての殺しを経験した彼女は、しばらく拳銃を握りしめたままだった。

 手がふるえ、指が硬直して離すことができなかったのである。――


 アレックスは寮に戻った。

 部屋に帰ると、ひとりの少女がその胸に飛びこんできた。

アレックス!

痛っ

 アレックスは、左肩をかばうようにベッドに倒れこんだ。

 少女は、驚き反射的に飛び退いた。

 しかし、すぐに救急箱を持って、ベッドに腰掛けた。


ねえ、また怪我してきたの?

あっ、ああ……

もうそのバイト辞めたらあ? どんなにお金がよくても身が持たないよお?

たしかに怪我をすることはあるけれど、でも、たまにキャンバスを巡回するだけの簡単なバイトなんだよ。それに紹介してくれた先輩に申し訳ないしさ

 アレックスは、平然とウソをついた。

 彼女がMI6の諜報員だということは、誰にも知られてはいけない国家機密なのである。


でも心配だわ

大丈夫だよ、ジェニファー

アレックス……

……テストも終わったし、夏休みにたっぷり遊ぶためには今からバイトをしなくちゃね

でも、いつも夜に出ていくんだもん。心配だわ

今日は朝までずっと一緒だよ

ほんとに?

……ケータイが鳴らなければ

もう! だったら鳴るまでたっぷり可愛がって!!

ふふっ

あぁん













 翌日。

 数学教授の研究室にて。


やあ、アレックス。昨晩は大変だったね

いえ、少し手間取ってしまいました

初めての殺しだったのだろう? 優秀だよ

はあ

二度目の殺しは、ずっと楽だよ。キミもすぐに『殺しのライセンス』を得て、ダブルオーを名乗ることになるだろう

ふたり殺すことがダブルオー昇格の条件でしたよね

古くからの慣習だよ

 そう言って教授は、父性に満ちた笑みをした。

 それから彼は紅茶を飲むとこう言った。

ところで、アレックス。キミが殺したロシアのスパイだがね

なんでしょう、プロフェッサーQ

彼女はゼニア・ザラゲブナというKGB職員でね、実は二人組で入国していることが判明した

では、残りも私が

キミではない

 きっぱりと、プロフェッサーQは言った。

この大学は、密かに諜報員をスカウトしている。そのことはキミも知っているよね?

大学の試験に、MI6の適正テストを潜ませているんですよね

先日のテストで、高い適正値を叩きだした人物がいた。今回の任務は、彼女にやってもらおうと思う

誰ですか?

………………

ジェニファー・ボンド→

キミのルームメイトだよ

ダブルオー・シックスは裏切りのナンバー【前編】

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