年の瀬。コシノクニの駅ビルで、世にもバカげた同窓会がはじまった







 1年に夏・冬の2回だけ集まってお酒を飲むという約束で、だからいっそう楽しいのかもしれないけれど、なんといっても、学生時代の親友ほど気心の知れたものはない。

 高校を出てからの8年、4人の境遇――とくに生活レベルは、天と地ほどの差ができたけど、それでもお酒を飲めば8年前の仲にかえるはず。


 大学を卒業した後、すばやく公務員の妻におさまった早苗が言った。

ねえ、知ってる? バスケ部の早川さんが結婚するんだって

そうなんだ

相手は会社の人で30代半ばなんだって

まあ、相手からしてみれば、そろそろって感じだよね

そっか。年上の人と付き合ってると、もうそんな歳なんだよね

社会人になってからは、ほんと時間が経つの早いもんね

主婦になるともっと早いわよ

 早苗たちは同時にため息をついた。

 私は愛嬌よく相づちを打った。

………………


 しかし、うわのそらだった。

ところで、舞は彼氏とどうなのよ?

そうだ。もう4年くらい付き合ってるよね

6年だよ

ええっ!? もうそんなに経ったんだあ

 その後、話題は恋愛方面に移ったけれど、それでも、私は愛想笑いで適当に会話を流すだけだった。

 私には彼氏がいない。

 恋愛経験もない。

 話においてけぼりなのである。

………………


 だから私はずっと、『前まではこんな話はしなかったのに』と思いながら、座り続けていた。

 うらめしく思っていた。

 そして時間になると帰るのだった。



















 子供の頃は――。

 将来は、マスコミ関係で働くか、それか服飾デザイナーか、服飾関係の仕事か、まあ、なんでもいいや、とにかく東京の会社で働こうと思っていた。

 夢が叶わなかったら、結婚して主婦になろうと思っていた。


 それなのに――。

 今は、大学を1年留年して、卒業後に服飾の専門学校。

 実は専門学校も卒業していて、現在は就職浪人。

 しかも26歳、彼氏なし。

 夢が叶わなかったら、結婚して主婦になる――どころではない。

 今までの人生経験で分かったけれど、結婚とか無理ゲーとしか思えない。

なんなのよ……

 こんな未来、思ってもみなかった。

 もう、結婚以外も、いろいろと無理ゲーじゃない。

 しかも、もう来年になってしまう。

 西暦がまたひとつ増える。

 そして私も歳をとる。


はあ……

 っと、私は長いため息をつく。

 そして顔を上げると、そこは小学校の前だった。














 私は、ふらりと立ち寄った。

 校門をくぐり、誰もいない校庭に侵入したのである。

登り棒かあ……

 その懐かしくも太い棒に、私は指をすべらせる。

 愛おしさがこみあげてくる。


気持ちよかったなあ……

 私はそれを太ももではさみんで足をからませる。

 それから腰を押しつけ、仰け反ってみる。







ああ……









 見上げた空には、赤いベテルギウス。

 白いリゲル、みっつ並んだベルト星――オリオン座。

 小学生のころに見たあの星は、今もかわらず輝いている。

 私の頭上で輝いている。

 私に光を落としている。




あの頃に戻りたいよ……


 はらりと、むなしさのしずくがほほを伝う。



 と。

 そのときだった。

 はるか上空を、たしかに無灯火の輸送機が、魔風のように吹きぬけた。

 それはコシノクニを北へ、陸上自衛隊の駐屯地の方向に進んでいるように見えた。

なんだろう

 私は口をぽっかり開けたまま、しばらくそれを見ていたが、やがて、ものすごく頭の悪いことを思いついた。

 まあ、流れ星じゃないけれど――と、あの輸送機に向かって願い事をしたのである。



あの頃のような無垢な気持ちで、ずっと登り棒で遊んでいられますように









 甲信越最大の都市『こしのくに』が痴女パンデミックに見舞われる、まさに前夜のことである。――



オナトップが懐古の空に願う夢

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